自転車は健康寿命を延ばすのに最高の道具だと思います。
けれども、自転車での事故で、逆に健康寿命が短くなってしまうという残念なこともあります。
また、相手に怪我させてしまい多額の賠償金を払うといった事態になれば、老後の資金計画が大きく崩れてしまいます。
自転車対歩行者の事故は自転車側が高額な賠償金を支払うことが多いですが、自転車対歩行者の事故件数の統計を見ると減ってはいません。
誰もが事故の加害者、被害者になったり、自損事故を起こしたりする可能性があります。
そこで、自転車での事故で引き起こされる問題とそのリスクを減らす策について考えてみたいと思います。
目 次
自転車での思わぬ事故で健康寿命が短くなってしまう
先日、前自民党幹事長の谷垣禎一氏が東京・永田町に久しぶりに姿をみせたというニュースをみかけました。
この方は自転車が大変好きな大物政治家として有名でした。
しかし、6年前の71歳のとき、サイクリング中に考え事をしていたとのことで、段差から落下して大怪我を負ってしまいました。
このニュースを覚えている方も多いかと思います。
この事故で頸髄を損傷して車椅子生活を余儀なくされ、政界を引退してリハビリ生活を送るようになりました。
これがなければ、介護なしに自立して生活できる期間、即ち、健康寿命をもっと伸ばせたのではないかと思います。残念ですね。
自転車事故で怪我をするのは怖いですが、特に中高年になってからの怪我は治りにくく、場合によってはそれが原因で要介護者になってしまうこともあります。
事故は自分がいくら気をつけていても、相手にまきこまれてしまう不運もあり得ますから、リスクをゼロにすることはできません。
けれども、少しでもリスクを減らすためには次のことが大事だと思います。
- 道路交通法を順守する
- 自転車の走行は車道が原則(歩道は例外)、左側通行、信号順守、一時停止順守、歩行者優先、夜間のライト点灯などです。
元々、道路での交通の安全を高めるためにある法令ですから、守るのは当然ですね。
- 自転車の走行は車道が原則(歩道は例外)、左側通行、信号順守、一時停止順守、歩行者優先、夜間のライト点灯などです。
- 自動車やバイク、通行人とぶつかったり、バランスをくずしたりしないような走りやすい道をできるだけ選ぶ
- 気持ちとは裏腹に、若い頃よりも筋力やバランスをとる能力、聴力、視力などが衰えています。
危ないと思ったら無理に自転車で走行せず、自転車を降りて押して歩く方が良いと思います。
- 気持ちとは裏腹に、若い頃よりも筋力やバランスをとる能力、聴力、視力などが衰えています。
- 常に周囲を注意しながら自転車に乗る
- 交差点を左折するときは、横断中の歩行者がいないか注意する必要があります。
また、以前、前方で路駐している車のドアがいきなり開いてぶつかりそうになったことがありました。
その後は、路駐している車を追い越すときは、車内で妙な動きがないか注意するようにしています。
それから慣れてくるとやりがちですが、考え事をして心ここにあらずの状態でサイクリングするのは非常に危険です。
実は、私も考え事をしながらペダリングを漕いでいて、気が付いたら相当の距離を走っていたということがありました。
そのときは、そこそこスピードを出しており、今振り返ると我ながらゾッとします。
- 交差点を左折するときは、横断中の歩行者がいないか注意する必要があります。
- 自転車の整備を怠らない
- 突如ブレーキが効かなくなったり、タイヤの空気が減りすぎ、思うように運転ができなかったりすると危険です。
また、夜間にライトがつかない、あるいは必要なときにベルが鳴らないというのも危ないですね。
ブレーキやタイヤ、車体の劣化、ワイヤーのほつれや錆びなどがあれば、必要に応じて整備・修理をする必要があります。
- 突如ブレーキが効かなくなったり、タイヤの空気が減りすぎ、思うように運転ができなかったりすると危険です。
- 走行中にスマホやサイクルコンピューターを操作しない
- スマホホルダーを自転車のハンドルに取付けて、スマホでナビゲーション・アプリなどをサイクリングに使う人は多いと思います。
また、スピードやケイデンスなどのチェックにサイクルコンピューターを付けている人も多いですね。
走行中にスマホやサイクルコンピューターを操作すると片手運転となり危険ですし、画面を注視することにより、周囲の危険に気がつかなくなる恐れがあります。
- スマホホルダーを自転車のハンドルに取付けて、スマホでナビゲーション・アプリなどをサイクリングに使う人は多いと思います。
- ビンディングペダルに不安がある場合は使わない方が良い
- ビンディングペダルが外れず立ちごけしてしまったというような経験があり、苦手意識がある人は使わない方が良いでしょう。
実は私はこれで怪我をしたことがあり、そのときの経験はこの記事に書きました。
- ビンディングペダルが外れず立ちごけしてしまったというような経験があり、苦手意識がある人は使わない方が良いでしょう。
自転車事故で老後の資金不足が悪化することも
健康寿命が短くなってしまうのは大問題ですが、事故により老後の資金計画が狂ってしまうことも怖いです。
老後の資金というと、「2000万円問題」が思い出されます。
これは「高齢夫婦無職世帯の平均的では、毎月の赤字額は約5万円となっている。
この赤字がずっと不足する場合、30年で約2,000万円の資産を取崩すことが必要になる。」
という趣旨の文言が金融庁の報告書にあったことから一時期マスコミが大きく取り上げました。
この試算では、不慮の事故などによる出費は考慮されていません。
貯えが少なく、年金に頼っている中高年が、自転車事故で自分が負傷して医療費を支払ったり、相手に被害を与えて賠償金を払ったりする事態に陥ってしまうと、老後資金の問題は更に深刻になります。
自転車事故の高額賠償額の例
自転車事故で、なんと何千万円という巨額の賠償金を支払うケースも少なくないようです。
鶴ヶ島市のHPに、自転車事故での賠償金の例が掲載されていたので引用します。
https://www.city.tsurugashima.lg.jp/page/page003180.html
事故概要:無灯火かつイヤホンで音楽を聴きながら走行中に、職務質問中の警察官と衝突(2020年)
被害:死亡
賠償額:9,330万円
事故概要:夜間歩道と車道の区別のない道路にて歩行者と衝突(2013年)
被害:後遺障害(遷延性意識障害)
賠償額:9,521万円
事故概要:自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに自転車で横断、 対向車線を直進してきた自転車と衝突(2008年)
被害:後遺障害(言語機能喪失)
賠償額:9,266万円
事故概要:男性が昼間、信号表示を無視して高速度で交差点に進入、青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突(2007年)
被害:頭蓋内損傷等で11日後に死亡
賠償額:5,438万円
事故概要:男性が朝、赤信号で交差点の横断歩道を走行中、男性が運転するオートバイと衝突(2005年)
被害:頭蓋内損傷で13日後に死亡
賠償額:4,043万円
事故概要:男性が夕方、ペットボトルを片手に下り坂をスピードを落とさず走行し交差点に進入、横断歩道を横断中の女性と衝突(2003年)
被害:脳挫傷等で3日後に死亡
賠償額:6,779万円
恐ろしいですね・・・
多額の賠償金になりかねない自転車関連事故は減っていない
また、恐ろしいのは、国土交通省 自転車活用推進本部の資料によると、下図のように高額な賠償金になる恐れが高い「自転車対歩行者」の事故は減少せずに横ばいであることです。
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/bicycle-dgs/pdf01/04.pdf
信号機のない交差点での対歩行者の事故の場合、 下の図のように、自転車側に責任割合が多くなり、 賠償額の負担は大きくなります。
相手に怪我を負わせた場合は、怪我の治療費、仕事を休む期間の給与の補填、慰謝料などを賠償するほか、後遺症が残ればその逸失利益や介護費用なども支払う必要があります。
特に、歩道上での自転車と歩行者の事故だと、自転車側が基本的に100%の責任となるようです。
歩道上での自転車と歩行者の事故の責任割合
また、「自転車相互」の事故は年々減少してきていたのが、 平成27年から増加に転じており、 「自転車対歩行者」 事故の件数より多くなっています。
なお、自転車対自動車(バイクも含む)の事故については年々減っています。
この場合、自転車側が被害者であることが多いと思われます。
(ただし、上述のオートバイとの衝突での賠償金の事例のように、対自動車の場合でも、自転車側が多額の賠償金を支払うこともあるようです。)
加害者側が四輪車やバイクの場合の交通事故は、加害者側が自賠責保険と任意保険に加入していることが通常ですから、被害者に損害賠償を行うことができないということは稀だと思います。
自転車保険に加入していない人が多い
6割近くは自転車保険に未加入
もしも自転車保険に未加入のまま、対人や対物の事故を起こして賠償金を支払う事態になってしまったら、自分の手持ちの資産を切り崩してそれを支払う必要があります。
また、こちらが被害者の場合、加害者が保険に未加入だと、賠償請求をしたとしても、その支払いができる資産を持っていなければ、こちらは十分な補償を受けることができなくなってしまいます。
それから、自転車での自損事故でも、自分の怪我の治療や入院、通院などにかかる自己負担分の費用も保険に入っていないと同じく自分の預貯金から支払わねばなりません。
繰り返しになりますが、こうなってしまうと、貯えがあまりなく年金の受給に頼っている中高年にとっては、老後資金の問題がさらにシビアになります。
三井住友海上火災保険株式会社の「自転車利用に関する調査結果」(2022年9月14日プレスリリース)によると7割以上が事故を経験しているのに対し、6割近くは自転車保険に未加入とのことです。
https://www.ms-ins.com/news/fy2022/pdf/0914_2.pdf
「みんなで渡れば怖くない」じゃないけれど、大半の人が加入していないから私も未加入でオッケーということにはなりません。
自転車保険への加入の義務化
現在、自転車保険への加入が義務化されているのは30都府県1政令市とのことです。
私が住んでいる神奈川県も義務化しています。
「義務化されていうことは、加入しないと何か罰則があるの?」と誰しも疑問に思いますが、罰則規定を定めている自治体は、今のところないようです。
ただ、罰則があろうとなかろうと、もしも高額な賠償金を払わねばならないという恐ろしい事態に直面した場合、一番困るのは自分です。
自転車乗りは、自転車事故に備えて加入しておくことが必要ですね。
自転車保険への加入に関する注意点
「自転車保険」と名前がつく保険である必要はない
私の失敗経験を話したいと思います。
私は自転車保険に入る前、恥ずかしながら保険全般についてかなり疎い方でした。
というのも、保険関係のことはそれまで妻に任せっぱなしにしていたからです。
ただ、自転車保険に関しては自分で加入しようと調べ始めました。
私の勘違いは、「自転車保険の義務化」と騒がれているので、「自転車保険」と名前がつく保険に加入する必要があると思い込んでしまったことです。
それですでに契約している自動車保険の特約のメニューを見ると、「自転車傷害特約」というのあるので、「これこれ、この特約を付ければよいのだ」と思ってしまいました。
でも実際には、「自転車傷害特約」というのは、自分や家族が自転車走行中に転倒したり、歩行中に他人の乗っている自転車とぶつかったりして、死傷した場合に、入院や死亡、後遺障害に支払われる保険金についての特約でした。
これはこれで必要な保険と思いましたが、自分が自転車に乗っていて事故を起こしてしまって相手に支払う賠償金に関する保険ではありません。
それで、自転車事故での賠償金に関する保険を更に調べてみた結果、分かったことを整理すると次のようなことでした。
まず、TSマークをチェックする
すでに自分が自転車保険に入っていないかどうかをチェックをする必要がありますが、まずはTSマークのチェックです。
サイクルショップで自転車を買った時に、お店の人に勧められて、TSマーク付帯保険の内容をよく理解せずに、加入している人も多いかもしれません。
また、加入したことすら忘れていることもあると思います。
自転車安全整備店で点検整備を受けた後、TSマークを貼付してもらうとTSマーク付帯保険に加入したことになります。
自転車にこのようなシールが貼られているのをみたことがある方も多いと思います。
TSマークに付いている賠償責任補償額ですが、赤色TSマークは1億円、青色TSマークは1,000万円が付いています。
ですから、これがあれば、自転車保険への加入の義務は果たしていることになります。
ただ、注意点は、TSマークの有効期間は1年間ということです。
1年経ったら、再度点検整備を受け、TSマークを貼付してもらうことで更新する必要があります。
TSマークが無い場合
TSマーク付帯保険に加入していない場合、次の①~⑧の保険・共済に加入しているかを確認します。
これらの保険・共済に「個人賠償責任保険」(日常賠償責任保険、賠償責任共済といった名称も同様な保険)が契約(付帯)されているかどうか調べてみます。
- 「自転車保険」 等の名称で販売している傷害保険とのセット商品
- 自動車保険 (特約)
- 火災保険 (特約)
- 傷害保険 (特約)
- クレジットカードなどの付帯保険
- 会社等の団体保険
- PTAの保険など学校・大学で加入募集を受ける保険
- 交通安全協会の自転車会員として加入している保険(自転車事故による損害賠償のみを補償)
複数の保険・共済ですでに加入
①~⑧のうちの複数の個人賠償保険に加入していることが分かった場合、損をしている可能性があります。
個人賠償保険は生計を共にする同居の親族が補償の対象となるため、補償範囲が重複していて保険料の無駄払いとなってしまうことがあるからです。
複数加入しているのであれば補償内容が充実しているものに絞るとよいでしょう。
どれにも加入していない場合
上記の①~⑧をチェックした結果、全く個人賠償責任保険に加入していないことが分かった場合は、補償内容が充実している個人賠償責任保険を選んで加入します。
具体的には、万一、高額の賠償になってしまう場合に備えて、個人賠償責任保険の補償金額は最低でも1億円以上か無制限に設定されている保険を選ぶと良いと思います。
また、賠償請求をされたときに保険会社が代わりに交渉してくれる「示談交渉サービス」がついている保険を選ぶと、より心強いと思います。
まとめ
自転車は素晴らしい道具ですが、運悪く自転車による事故で健康寿命を短くしてしまったり、ライフプランが資金面で破綻してしまうこともあり得ます。
自転車に乗り慣れて、怖いと思わなくなるときが、一番危ないと思います。
乗るときは常に危険と隣り合わせであることを思い起こす必要があると思います。
それに関連して安全な自転車の乗り方を心がけることや、乗る前の整備・点検は大切です。
また自転車保険に未加入の場合、ぜひ、すぐに加入しましょう。
そうしてより安心して自転車ライフをエンジョイしましょう。