電動アシスト自転車の最大の魅力は、きつい上り坂でも楽に上れることでしょう。
沢山の重い荷物を積んだり子供を後ろに乗せたりしても、急な坂を上れるのは本当に便利です。
それで、上り坂に強い電動アシスト自転車を調べようと、ネット検索をしてみました。
そうすると「坂道に強い自転車ランキング」とか「アシスト力がある電動自転車のメーカーはここ」といった記事が幾つも出てきました。
けれども、どの記事も、なぜそのモデルやメーカーが他のよりも坂道に強いと言えるのかについての客観的な根拠が示されていません。
そこで、メーカーのカタログなど、公開されている情報から上り坂に強い電動アシスト自転車を選べるのかどうか調べてみました。
結論は、「メーカーをまたがって比較して、どの電動アシスト自転車が上り坂に強いのかは分からない」ということです。
どうやら、ネットで見かける上記のような比較情報は信用に足るものではないようです。
興味のある方は、どうしてこの結論になるのか、以下の説明をお読みください。
目 次
そもそも、アシスト比が法令で決まっているのに、なぜ違いがある?
ご存じの人も多いと思いますが、道路交通法で電動アシスト自転車のアシスト力の最大値は決められています。
そうすると、「どこのメーカーの電動アシスト自転車(e-バイクも含む)もこの法令に従っているのなら、上り坂のアシスト力はどれも大差なく、ランキングなんて付けられないんじゃないの?」という疑問が湧いてきます。
この法令を要約したのが下記です。
図にすると次のようになります。
上記の法令で定められている以上のパワーは、上り坂だからといってどのメーカーも出すこともできません。
例えば50万円近くもするパワーがありそうなマウンテンバイク風のe-bikeがありますが、これも最大アシスト比は1:2以内のはずです。
また、100万円以上するロードバイク風のe-bikeも売られていますが、時速24km以上ではアシストはゼロになるはずです。
法令の上限を超えている違法な電動アシスト自転車は、ときどき国によって公表されています。
(参照: 独立行政法人国民生活センター 「アシスト比率が道路交通法の基準を超える電動アシスト自転車に注意」https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20230419_1.html )
けれども、電動アシスト自転車のアシスト力は、メーカーやモデルによって実際に違いがあるようなので、その理由をさらに調べてみました。
「アシスト比1:2」もパワーが出ていない?!
調べて分かったことは、法令に定められている最大のアシスト比である、人力1に対してアシスト2ほどのパワーが実際には出ていないということです。
「2009年に法律改正があり電動アシスト自転車は人間の力が1に対して2までアシストしてもいいことになりました。人間が踏んだ力に対して倍の力を補助するので1/3の力で走れることになります。
でもアシスト力を1:2の上限まで出しているものは日本のメーカーではほとんどありません。」
KATO CYCLE 「知っておきたい豆知識」 https://katocy.com/electricbicycle/electricbicycle02/
「法律上の上限値は1:2でも、各車種の実際の設定値は1:1.2位の場合が殆ど。」
電動アシスト自転車 まとめ @ Wiki「実際のアシストは「1:2」じゃない!」 https://w.atwiki.jp/den-assist/pages/32.html#id_2edeb075
私はなんとなく、どの電動アシスト自転車も最大で2近くのアシスト力を出しているんだろうと想像していたので、びっくりしました
実際、メーカーの取扱説明書を見ると、法令が定めるアシスト力よりも下回っていることを示唆する記述がありました。
例えば、ヤマハの取扱説明書には、次のような説明があります(ピンク色の下線は筆者が付けたもの)。
電動補助(パワーアシスト) システムにより最適なアシスト力が得られます
・ペダルを踏む力や走行速度、変速位置などに応じて、 基準の範囲内でアシストをします。
発進から時速10kmに達するまでは、ペダルを踏む力 “1” に対して最大で “2” の力でアシストすることができます。 時速10km を超えるとしだいにアシスト力を弱めていき、時速24kmでアシストをゼロにします。要点
ヤマハ PAS Braceの取扱説明書
ここでは、アシストの法令基準について説明しています。
PASのアシスト比を表しているものではありません。
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/owner-support/manual/pdf/X1N-28199-JS.pdf
このように、『「自社の電動アシスト自転車が法令基準の最大までのパワーを出します」とは言っていませんよ』という記述がメーカーの取扱説明書にあります。
次のブリヂストンの取扱説明書での記述も同様です(ピンク色の下線は筆者が付けたもの)。
● ペダル踏力とアシスト力の比率
要 点
ここでは、アシスト力の法令基準について説明しています。電動アシスト自転車はこの基準の範囲内で、ペダルを踏む力や走行速度、変速位置などに応じてアシストをします。〈法令基準〉
● 時速10Kmまでは、こぐ力とアシスト力の比率が「最大1:2※」となります。
● 時速10Kmを超えると、しだいにアシスト力を弱めていきます。
● 時速24Kmでアシスト力はゼロになります。※法令基準はあくまで最大値を定めるものです。商品によってこの基準の範囲内でアシストレベルが異なります。
ブリヂストン 電動アシスト自転車TB1eの取扱説明書
なるほど・・・実態は、人力1に対してアシスト2ほどは、どのメーカーもアシスト力を出していないようです。
では実際の数値は公表されているのかどうか、製品カタログなどを見ても、公にされていません。
ですので、メーカーやモデル間で比較して坂道での登坂力のある電動アシスト自転車のランキングを客観的に付けることはできないと思います。
ネットでみかける坂道に強い電動アシスト自転車のランキングは、特定のモデルを売りたいという販売促進の一手法、あるいはWebページへのアクセス数稼ぎとして発表されているにすぎないようです。
各走行モードでのアシスト力の味付けはメーカーごとに違う
上記のように、法令で規定されている最大のアシスト力までは実際には出すようになっていないことから、メーカーやモデル間で上り坂の登坂力が違うことが分かりました。
さらに、次のことからも、登坂力の違いが生まれます。
殆どの電動アシスト自転車は、メーカーにより名称は違うかもしれませんが、パワーモード、オートモード、エコモードというように走行モードが選べるようになっています(次の図を参照)。
この図のように、走行モード毎、さらに平坦路や上り坂といった走行状況毎にアシスト力が変化するように設定されています。
ゆるい坂道やきつい坂道の走行の際に、どの走行モードで、どのくらいアシスト力を発揮させるのかは各メーカーのさじ加減です(もちろん、最大のアシスト比に関連する法令の範囲内ですが)。
ですので、ここでもメーカーや自転車のモデル間での坂道でのアシスト力の特徴が出てきます。
強力な登坂力をウリにしたいとか、緩やかな坂道を長距離走れることを重視するといったように、どのような乗り味にするのかについての各メーカーの考え方にもよって、アシスト力の違いが生まれます。
この「味付け」もメーカーによって公開されていないので、坂道に強い電動アシスト自転車のランキングをつけられる筈もありません。
技術面からみた電動アシスト自転車のアシスト力の差が生まれる要因
また、電動アシスト自転車のアシスト力に影響を与える技術面での要因には次のようなものがあると思います。
要因 | 説明 |
---|---|
モーターの出力 | モーターの出力はワット(W)で表され、一般的に高出力のモーターはより強力なアシストを提供します。 ただ、以下の要素が絡まっているので、モーターの出力が大きいと言って単純にアシスト力が強いとは言えません。 |
バッテリー容量 | バッテリーの容量が大きいほど、アシスト力を長時間維持することができます。 |
センサーと制御システム | 電動アシスト自転車には、ペダルセンサー、トルクセンサー、速度センサーなどが組み込まれていて、これらのセンサーによって状況に応じてアシスト力が調整されます。 センサーの精度や調整のためのアルゴリズムによって、アシスト力の出力が変わってきます。 |
自転車の設計と構造 | 自転車のフレーム、ホイール、ギア比なども次のようにアシスト力に影響を与えます。 ・一部の電動アシスト自転車は、アシスト力をより効率的に伝えるギア設計を採用しています。 ・車重が軽い方が、同じモーター出力であれば、アシスト力を感じやすくなります。 ・タイヤは細い方が地面からの抵抗力が少ないので、アシスト力を感じやすくなります。 |
上記のように色々な要因がありますが、高性能であっても、高価な部品や素材ばかりを使ってコストが増えて利益が出ないのではビジネスにならないでしょう。
かといって、コストを低く抑えすぎて機能が劣ってしまうとライバル会社に勝てず売れません。
ここでも各メーカーの技術面や販売面でのさじ加減があり、その結果、アシスト力が変わってきます。
三大メーカーの電動アシスト自転車はどうなのか?
ここまでをまとめると、
- 法令で定められている人力1に対して最大アシスト2よりも、実際にはアシスト力は大分、下回っている可能性があるが、メーカーから数値的に公表されていない
- パワーモード、オートモード、エコモード走行モードでのアシスト力の味付けはメーカーごとに違うが、こちらもメーカーから数値的に公表されていない
- アシスト力の差が生まれる理由には、モーターの出力以外に、センサーの性能、部品・素材の違いによる重量、動力ギアの構造など、様々な要因があるが、そのような仕様の詳細は公表されていない
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(結論) メーカーをまたがって上り坂に強い電動アシスト自転車を選び出すことはできない
では、メーカー毎に上り坂に強い電動アシスト自転車は選べるでしょうか?
日本での三大電動アシスト自転車メーカーは、パナソニック、ブリヂストン、ヤマハです。
これらのメーカーの商品カタログなどを集めて調べてみました。
結論から言うと、アシスト力がモデル間で明確に比較できるのはヤマハだけです。
では、それぞれのメーカーについて調べた結果を紹介します。
パナソニックの場合
先に述べたようにパナソニックは、商品のアシスト比は公開していません。
一応、電子カタログはあるのですが、どれが上り坂に強いのかを判断できるような情報は書かれていません。
https://cycle.panasonic.com/catalog/eb_all/
そのため、パナソニックの電動アシスト自転車の中で、どれが上り坂に強いのかは分かりません。
関連情報としては、「ビビ・L・押し歩き」というモデルに「押し歩き」という他社にない機能が付いています。
歩道橋の坂道や駐輪場のスロープなど、重い電動アシスト自転車を押して歩くことは日常生活で少なくないと思います。
この機能により、ペダルをこがない場合でもアシスト機能が働くので楽に押し歩きができます。
消費者目線の良い機能だと思います。
また、パナソニックはバッテリーに強いことが知られていますが、そのため、パナソニックの電動自転車はバッテリー容量が16Ahもあるモデルがあります。
つまり、一度の充電で長い距離を走行することができます。
ちなみに他社だと、バッテリー容量の最大は多くの場合、15.4Ahです。
ヤマハの場合
ヤマハは他の電動自転車メーカーと比べると、色んなメディアで上り坂に強いことを最も宣伝しています。
例えば、次のYouTubeのコンテンツのようなものです。
ヤマハは「アシストレベル」という指標でアシストの相対的な強さを★の数で表していて、最高レベルは★が六つです。
https://www.yamaha-motor.co.jp/pas/faq/answer/cn/02/qn/post_70/
したがって、ヤマハの電動アシスト自転車の中でどれが比較的アシストが強いかが分かります。
ヤマハの製品カタログには、下図のように、モデル毎にアシストレベルの★の数が示されています。
子供を乗せるタイプのものは、やはり軒並み六つの★となっていますね。
なにせ、このタイプの自転車は車重だけで35kg前後もあるヘビー級です。
その上、非力なお母さんが子供を自転車に乗せて、坂の上の保育園まで送らなければならないなんていうシチュエーションに対応するにはやはり★六つなんだな思います。
一般的な一人乗りで選べば、「PAS With SP」というモデルが★六つで最強のアシストレベルです。
ちょっと気になるのが、車重が28kgもあり少し重いことです。
私の乗っているブリヂストンのTB1eは22.5kgですが、これでも坂道を押して登ったりしたり、駐輪場で自転車ラックの上段に乗せたりするのはちょっと大変です。
★六つなので、走行時はしっかりアシストしてくれるのでしょうが、降りて押し歩きするとき大変ではないのか気になりました。
ヤマハの電動アシスト自転車で私が気になるのはスポーツタイプの「PAS Brace」です。
これは前傾姿勢をとりやすいフレーム設計で興味があるのですが、アシストレベルの★は四つです。
スポーツ指向のモデルなので、もっと★が多いのかと思っていました。
ただ、重量は23kgと「PAS With SP」の28kgより大分軽く、バッテリー容量は15.4Ah、しかも8段変速なので長距離のサイクリングには向いていると思います。
ブリヂストンの場合
ブリヂストンもパナソニックと同様、ヤマハの「アシストレベル」のようなアシスト力の違いが分かる目安は出していません。
ですので、ブリヂストンの商品間で客観的にアシストの力を比較することはできません。
ただ、坂を上る能力に関係しており、ブリヂストンのユニークな点として、独自の技術「両輪駆動(デュアルドライブ)」を採用していることです。
(参考: ブリヂストン 「両輪駆動(デュアルドライブ)」紹介Webページ https://www.bscycle.co.jp/assist/ )
後輪にモーターの力が働く電動アシスト自転車が一般的ですが、この両輪駆動モデルでは前輪にモーターの力が働きます。
そのため、坂道では前から引っ張ってもらっているような感じで上ることができます。
これにより、自転車の前方が安定し、重たい荷物を載せて坂を上っていても、ハンドルが安定します。
また、ブリヂストンの駆動系の特徴は、下り坂でブレーキをかけるとモーターブレーキが作動し、バッテリーに自動的に充電がされることです。
この効果で、一度の充電での走行距離を延ばすことができます。
また、自動車での下り坂の際にエンジンブレーキがかかるのと同様に、下り坂で加速するのを抑える効果があります。
【 誤った情報にご注意 】
ブリヂストンの電動アシスト自転車のモーターについてインターネット検索をしてみたら、ブリヂストンのモーターは全てヤマハからのOEM(相手先ブランド製造のこと)だから、ヤマハとアシスト力は一緒という趣旨の記事が沢山出てきました。
これは昔の話で、8年前からブリヂストンの電動自転車は自社の独自技術「両輪駆動(デュアルドライブ)」を開発しています。
また、先に説明しましたように、仮に同じモーターを使ってもアシスト力は同じにはなりません。
古い情報で今では誤っているものが沢山、ネット検索で出てくるので怖いですね。
おわりに
「坂道に強い電動自転車メーカーはこの〇社」とか「アシスト力が高い電動自転車のおすすめ〇〇選」といった記事がインターネットに載っていますが、判断に必要な情報がメーカーから提供されていないので、こういった記事は信頼性が低いと言わざるを得ません。
例外はヤマハで、「アシストレベル」という★の数で、自社の電動アシスト自転車のアシスト力の相対的な比較を消費者ができるようにしています。
他の大手メーカーであるパナソニックとブリヂストンは客観的にアシスト力を比較できる指標は公表していません。
ただ、パナソニックには「押し歩き」という他社にない機能が搭載されているモデルがあります。
また、ブリヂストンは独自の「両輪駆動(デュアルドライブ)」を開発し、他社と違って前輪にモーターの力が働くので、自転車の前方が安定し、重たい荷物を載せて坂を上っても、ハンドルが安定します。
さらに、下り坂でブレーキをかけるとモーターブレーキが作動し、バッテリーに自動的に充電がされるので、一回の充電で長く走れるというメリットもあります。
次の記事では、既に電動アシスト自転車を持っている方向けに、航続距離をできるだけ延ばすコツを紹介していますので、よろしければご覧ください。