昔は「疲労をとるために、筋肉に溜まった乳酸を流せ」ってよく言われました。
また、私が学生のときに入っていた運動クラブでは『練習中は水を飲むな、終わってから飲め』と指導されていました。
昭和の根性論が今では危険とされ、完全に覆っている説です。
科学的知見が今より少なかった時代に、本や雑誌、監督・コーチが言っていたことが、最近では否定されているということは多くあります。
この記事では、サイクリングに関してありがちな「昔の常識・今の非常識」をご紹介したいと思います。
「私もそう思ってた!」という事柄があるかもしれませんよ。
目 次
昔の9つの説
この記事では次の9つの説をとりあげます。
あなたはこの中の幾つを「これは、そう!」と思いますか?
それではこれらについて、今の常識がどうなっているのか、ご紹介します。
説1:『筋肉にたまった乳酸を流すために下り坂でもペダルを漕ぐべし』
下り坂でも脚を止めずに軽くペダルを回すと回復促進に役立ちますが、誤りが含まれています。

残念ポイント:
近年の研究では、以前、定説であった「乳酸=疲労物質」という考えは完全にくつがえりました。
今の常識:乳酸は疲労物質ではなく、体内で再利用される“エネルギー源”
(参照:健康長寿ネット『乳酸とは』)
先日もJ SPORTSで自転車ロードレースを見ていたら、解説者が「下り坂の後のすぐの上りはきついんですよ。乳酸がたまってきて…」と言っているのを聞きました。
これは、過去の「乳酸=疲労物質」のイメージが根強く残っているためであり、科学的には否定されていても、俗説や慣用句として使われ続けています。
説2:『ゼーハー言うくらい頑張らないとトレーニングにならない』
これは部分的に正しいですが、誤解を招きやすい表現でもあります。
残念ポイント:
競技レベルのロードレースで成績を残すには高強度トレーニングが必要で、最大酸素摂取量の向上などに重要な役割を果たすのは確かです。
けれども、毎回限界まで追い込むと、オーバートレーニング症候群のリスクが高くなり、適切な回復時間も競技力向上には必要なので、かえってパフォーマンスが低下する可能性があります。

今の常識:毎回追い込むよりも、「楽な運動8割・きつい運動2割」のバランスが最も効果的
現代のトレーニング理論では以下の点が重要とされています:
● 80%程度は比較的楽な有酸素ペース(会話ができる程度)
● 20%程度が高強度トレーニング(ゼーハーする領域)
この「80/20ルール」は多くのエリート選手が採用しています。
(参照:Seiler & Tønnessen(2009)PMCレビュー論文『The training intensity distribution among well-trained and elite endurance athletes(よく訓練されたエリート持久力アスリートのトレーニング強度分布)』)
また、試合で勝つためでなく、健康のために運動する一般人は、「ちょっと息が上がる程度の有酸素運動を続ける方が健康に良い」とされていて、サイクリングはその代表です。
特に、高血圧、腎不全(特に慢性腎臓病=CKD)、糖尿病などの慢性疾患を持つ人にとって、「ゼーハー言うくらい頑張る」ような高強度の運動(無酸素運動に近い激しい運動)は原則として推奨されません。
なぜなら、心血管系への過度な負荷や炎症の悪化、血糖コントロールの不安定化(糖尿病)などの恐れがあるからです。
代わりに、中強度までの有酸素運動が健康に良いとされています。
説3:『高齢者は無理して運動しない方がいい』
昔は「安静にしていれば安全」という発想でしたが…
残念ポイント:
研究の結果で、運動不足の方がはるかに健康リスクが高いことが分かっています。

今の常識:年齢を理由に運動を控えるより、適度な運動を続けた方が健康長寿につながる
2000年代以降、「健康日本21」などの国の健康増進政策の中で、高齢者の運動推奨が明確に打ち出され、近年では2020年代の最新のガイドラインでもより具体的に推奨内容が示されています。
WHO(世界保健機関)も、65歳以上でも週150分以上の中強度運動を推奨しています。
(参照👉 「世界保健機関による新たなガイドライン「身体活動および座位行動に関するガイドライン」について」)

正しい知識で運動を続ければ健康寿命が延びるということですね。
もちろん、持病がある場合は医師との相談が必要ですが、「年齢を理由に運動を控える」という考え方は今では推奨されていませんね。
説4:『タイヤは細い方が速い』
かつてロードバイクといえば「細いタイヤ(23Cなど)が速い」と信じられてきました。
私もその一人です。
残念ポイント:
その思い込み、今すぐ捨ててください!
多くの人が「細いタイヤは接地面積が狭いので転がり抵抗が少ない」と信じていたと思います。しかし、実際には同じ空気圧なら太いタイヤでも接地面積はほぼ変わらず、これは誤解でした。

今の常識:太めのタイヤでも速度は落ちず、むしろ快適で安定した走りができる
ある記事に、実走テストでの速度比較が載っており、20mm、23mm、25mmのタイヤでの速度比較では、広いタイヤの方が速いという結果が出ています。
(参照:Gigazine 『自転車のタイヤは幅が狭くても広くてもスピードは変わらない』)
さらに、28mmや32mmのタイヤでのテストでも25mmとほぼ同じ速度が出ており、滑らかな路面では太いタイヤでも速度が遅くなることはなかったとのことです。
次のYouTube動画の中では、25cと32cのタイヤを乗り比べ実験をし、32cの方が速いという結果になっています。
説5:『喉が渇くまで水分補給をしなくてよい』
昔は、運動中に水を大量に飲むと、お腹がタプタプして体が重くなる、胃腸に負担がかかるなどの理由から、水分補給を制限する傾向がありました。
特に根性論的なスポーツ指導では、喉の渇きを我慢することが美徳とされ、私が学生のとき所属していた体育会系クラブでも「喉が渇いてから飲むべき」と教えられていました。

残念ポイント:
喉の渇きを感じた時点では、すでに体内の水分が不足し始めているサインです。喉の渇きを待ってから飲む方法では、脱水症状や熱中症の予防としては手遅れになるリスクが高まります。
また、脱水による電解質バランスの乱れや筋肉機能の異常で急に脚がつって動けなくなることもあります。
さらに、大量に汗をかいているのに水やお茶だけを大量に飲むと、体内のナトリウム(塩分)濃度が薄まり、低ナトリウム血症(水中毒)という危険な状態を引き起こす可能性もあります。
今の常識:喉が渇く前から、こまめに水分と電解質を補給するのが鉄則
特に中高年は、喉の渇きを感じる機能や体温調節機能が低下しやすいため、より意識的な補給が重要です。
運動開始の30分前までに250〜500ml程度を摂取し、サイクリングなどの運動中は15〜30分おきに100〜200mlを定期的に飲むことが推奨されています。
また、長時間のサイクリングや大量の発汗が見込まれる場合は、電解質(ナトリウム)と糖質を含んだスポーツドリンクや経口補水液を飲むことがお勧めです。
(参考:ヒロクリニック『内科医が教える健康的な水分補給の仕方』)
これにより、水分と同時に失われた塩分も効率よく補給できます。
説6:『タイヤの空気はパンパンに入れた方がスピードが出る』
タイヤの空気圧は、推奨気圧限界まで入れると地面とタイヤの接地面積が減り、スピードが出ると信じている方は多いのではないでしょうか?
私も、フロアポンプで一生懸命にタイヤがカンカンになるまで空気を入れてました。
残念ポイント:
空気を目いっぱい入れると、路面の凹凸をタイヤが吸収できずに弾んでしまい、逆に転がり抵抗が増えてしまうことがあります。
また、空気圧が高すぎると弾みやすく抵抗が増え、乗り心地やグリップ力も低下するので、かえってスピードを落とすことにつながります。

今の常識:空気圧は“高すぎても低すぎてもNG”。路面や体重に合わせて調整するのが最速への近道
次のように、重量やリム、タイヤに関する情報を入力をすると適正な空気圧を教えてくれるツールもあるので、使ってみてはどうでしょうか?
『タイヤ適正空気圧算出フォーム』 https://cycist-ceb.com/proper-tire-pressure/
説7:『タンパク質は筋トレ後にまとめて摂ればよい』
タンパク質(プロテイン)は、ウェイトトレーニングやスプリントなどの激しい運動を行った後に、筋肉を大きくするために一度に大量に摂取するもの、と考えられていました。
最近は 一般の中高年の間にもタンパク質の重要性の認知度が上がってきて、意識的にたくさん摂取している人も少なくないと思います。
残念ポイント:
人の体は、一度に処理できるタンパク質の量に限界があります。
一般的に、1回の食事や摂取で効果的に吸収・利用できるタンパク質の量は20〜40g程度とされており、これを超えて一度に大量に摂取しても、多くは利用されずに排出されてしまいます。
特に中高年は、若い頃に比べて筋肉が合成されにくくなる同化抵抗性という現象が起こるため、筋トレ後の一回勝負では効率が良くありません。
今の常識:タンパク質は一度に大量よりも、1日3食でこまめに摂る方が筋肉維持に効果的
摂取のタイミングは、1日3食(朝食、昼食、夕食)のそれぞれで、肉、魚、卵、大豆製品などのタンパク質をしっかりと摂ることが勧められています。
運動後(特に30分以内)は筋肉の修復・合成が活発になる「ゴールデンタイム」であるため、このタイミングでプロテイン飲料などでタンパク質を補給するのは有効です。
健康長寿を目指す中高年は、一般的な推奨量よりやや多めの体重1kgあたり1.0g以上のタンパク質摂取が推奨されることが多くなってきています。
これにより、筋力低下を防ぎ、サイクリングのパフォーマンス維持に役立ちます。
慢性腎不全は中高年に多い病気ですが、タンパク質の摂り過ぎは良くないとされています。
持病のある方は、医師などの専門家のアドバイスを受けてください。
説8:『自転車は車道の一番左端を走るのが正解』
自転車は道路交通法上、車道の左端を通行することが原則ですが、「左側端に寄る」といっても路肩のギリギリを走ることを意味するわけではありません。
残念ポイント:
道路の端にはグレーチング(排水性を高めるための格子状の蓋)や下水溝の蓋がよくあり、走りにくいです。
また、道路の端には、車の通行や風雨などで落下物やタイヤから剥がれた異物などが溜まりやすく、自転車のパンクが起こり易いです。


今の常識:路肩ギリギリではなく、車道の左端から約1〜1.5m内側が安全な走行位置
車道の左端から約1m〜1.5m内側というのは図にすると次のようなイメージです。

補足:安全走行の応用テクニック
なお、このように、車道の一番左端から約1m〜1.5m内側で走ると、自転車を追い抜いていく車との側方距離が縮まり、接触リスクが増えて怖いと感じる方もいると思います。
確かに、中途半端に隙間を空けると、自転車すれすれに強引な追い越しをする危険な車もいます。
ですので、道が狭く、ここで追い抜きをして欲しくないといった場合には、後続車が追い抜きができない程度に真ん中寄りを走りましょう(次の図)。
もし真横すれすれで追い抜こうとする車が来ても、左側に避けるスペースがあります。

「このような位置取りをすると、車の邪魔になりますよ」と言われる方もいると思いますが、生身をさらして走る自転車が自分の安全を犠牲にしてまで、車がスムーズに走れるようにしてあげる必要はありません。
邪魔だと言わんばかりにクラクションを鳴らす車もいるかもしれませんが、道路交通法で自転車は基本的に車道を走ることが義務付けられている上、「車は自転車のそばを通るときは、自転車との間に安全な間隔を空けるか、徐行しなければなりません」と定められています。(参照:国家公安委員会作成の「交通の方法に関する教則」第5章第3節7(1))
具体的な間隔は法令では定められていません。
しかしながら、自動車教習所の学科教習では、歩行者が車に気づいている場合は1メートル以上、車に気づいていない場合は1.5メートル以上と指導をしていることが多いようで、自転車に対しても同様です。

なお、自分の自転車の後続車が長い時間、ノロノロ運転をしなければならない、あるいは多くの後続車が追い抜きできないと分かったら、一旦道路脇で停止して先に行かせるようにしましょう。
こういう判断をしやすくするためにも、バックミラーを自転車に付ける方が良いと思います。
バックミラーの重要性やお勧めのバックミラーについては、『自転車の事故8割は自動車が相手!バックミラーで身を守りましょう』の記事をご覧ください。
説9:生活習慣病の人は安静にしてサイクリングしない方がよい
以前は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、さらに生活習慣病によって引き起こされる慢性腎臓病や心不全などの準生活習慣病の人は、腎臓や心臓に負担をかけないように、運動を避けるべきだと言われていました。
残念ポイント:
逆に、長期間の安静が筋力低下、骨密度減少、心肺機能の低下を招き、結果として病気の悪化を促進することが明らかになりました。
特に高齢者では、数日間の安静でも著しい体力低下が起こり、回復に長期間を要することが分かっています。

(注:廃用症候群とは過度に安静にすることや、活動性が低下したことによる身体に生じた様々な状態)
今の常識:持病があっても、適切な強度で運動を続けることが健康維持と回復に役立つ
「できる範囲で動く」が基本です。
特に有酸素運動(ウォーキング・サイクリング・水中運動など)が多くの病気に共通して推奨されています(注意:医師の許可とモニタリングが前提です)。
まとめ:古い思い込みをアップデートして、サイクリングを楽しもう!
中高年が教わってきた運動常識の中には、最新の科学や安全面の観点で非常識とされているものがたくさんあります。
でも、正しい知識にアップデートすれば、サイクリングはもっと快適に、健康長寿に役立つはず。
長生きすると、更に新たな「昔の常識は今の非常識」に出会えるかもしれませんよ。





























