階段を全力で上って、喉はぜーぜー、心臓はバクバク…「これって体に悪いんじゃ?」と不安になったことはありませんか?
高強度運動について多くの人が疑問に思うのは、これではないでしょうか。
特に中高年になると、不安感から、
「無理をして体を壊すくらいなら、中強度の有酸素運動だけを続けることにしよう」
と考える人も少なくないと思います。
私は日頃からサイクリングを中心に中強度の運動を続け、ガーミンのVenu3というスマートウォッチで運動量を管理しています。
ところがあるとき、時計に「体年齢を下げるには高強度運動を増やしましょう」というメッセージが表示され、「余計なお世話!」と思いました。
「ガーミンの体年齢は一般的なアルゴリズムで計算されているだけで、個々人の特性まで考慮してないから、このアドバイスを信用できない」と思ったのです。
そこで、専門家の論文や公的な情報をもとに、本当に高強度運動は必要なのか、誰に向いていて、どこまでなら安全なのかを調べてみました。
目 次
高強度運動を避けるべき人はどんな人か
結論から言うと、持病がある人や運動に慣れていない人は慎重になる必要があります。
スマートウォッチのような運動量管理のツールが「もっと高強度運動を増やしましょう」と言っても、うのみにするのはやめた方が良いと思います。
以下に当てはまる人は、自己判断で高強度運動を始めるのは控えた方が良いでしょう。
- 心筋梗塞・狭心症・不整脈などの既往症がある
- 高血圧がコントロールされていない
- 医師から運動制限を指示されている
- 日常的な中強度運動にも慣れていない
- 運動中に胸痛・めまい・動悸が出やすい
👉 「高強度=悪」ではありませんが、「生活習慣病の人」や「準備不足の高強度」は明確にリスクがある、というのが専門家の共通認識です。
まだ運動に慣れていない方へ:焦らず土台から作りましょう
「自分はまだ高強度なんて無理そう…」と感じた方も、がっかりする必要はありません。
高強度運動のリスクを避け、最大限のメリットを享受するためには、まず「中強度の運動」を余裕を持ってこなせる土台を作ることが先決です 。
いきなり息が切れるような運動に挑戦するのではなく、まずは以下のステップで「動ける体」の準備を整えていきましょう。
ステップ1:日常の歩行を「ややきつい」に変える
特別なトレーニングウェアを着なくても、普段の買い物や通勤の歩行を「少しだけ歩幅を広げ、背筋を伸ばして速く歩く」ことから始めます。これが中強度運動(ややきついと感じるレベル)の第一歩です 。
ステップ2:週に150分を目指す
WHOのガイドラインでも、まずは「中強度の運動を週に150〜300分」行うことが推奨されています 。
自分のライフスタイルに合わせて「中強度」を習慣化させましょう 。
自転車は「中強度の運動」を歩行よりも無理なく行え、しかも足腰に優しいのでお勧めです。
『ウォーキングよりも自転車の方が健康増進に効果的?エビデンスは?』の記事で説明しているので、よろしければご覧ください。
また、自転車は「きつくない運動強度で、早く遠くまで行ける」「飲料、食料、撮影機器、お土産などの荷物を運べる」「普段着で乗れる」といったことから、「楽しさの良循環」を作りやすく、継続しやすい運動です。
詳しくは『「楽しさの良循環」を作って、運動をやらない理由にサヨナラする方法』の記事をご覧ください。
ステップ3:体が慣れてきたら「スパイス」を加える
中強度の運動を数週間続けて、「最近、階段を登っても疲れにくくなったな」と感じたら準備完了です 。
その時初めて、数分間だけ少し強度を上げる(高強度を足す)ことで、安全に体年齢を若返らせることができます 。
「自分にとっての高強度」を知る2つの目安
「高強度」と言っても、アスリートと運動不足の人ではその基準が全く異なります。
自分にとって安全で効果的な「高強度」を見極めるには、以下の2つの方法が役立ちます。
1. 「トークテスト」で判断する
特別な器具がなくても、運動中の「喋りやすさ」で強度を判断できます 。
- 低強度: 歌を歌えるくらいの余裕がある。
- 中強度: 歌うのは難しいが、楽に会話が続けられる 。
- 高強度: 息が切れ、短い単語を絞り出すのがやっとの状態。まともにしゃべれなくなる 。
2. 主観的運動強度(ボルグ指数)
自分の感覚を数値化する「ボルグ指数」という指標も有効です。
- 中強度: 「楽である」から「ややきつい」と感じるレベル 。
- 高強度: 「きつい」から「かなりきつい」と感じるレベル。
このように、「今の自分にとって、かなりきついと感じるか」が、高強度運動の効果を得るための重要なものさしになります。
高強度運動をしてもよい人にとってのメリット
では、条件を満たした人が高強度運動を行うと、何が良いのでしょうか。
代表的な効果が、VO2max(最大酸素摂取量)の向上です。
VO2maxとは、体が取り込んだ酸素を使ってエネルギーを生み出す最大能力で、心臓・肺・血管・筋肉の総合的な体力指標です。
次の画像のように、スマートウォッチによっては、その値を表示してくれるものもありますね。

VO2maxが高いと次のメリットがあります:
- 買い物や掃除などの日常生活で疲れにくい
- 階段や坂道で息が上がりにくい
- 旅行の2日目も足が疲れない
- 炎症・酸化ストレスに強く、生活習慣病・死亡リスクが低い
👉 VO2maxの向上は、「運動能力」ではなく「生活の余力」を高める効果があり、中高年ほど意味を持ちます。
「レート・オブ・リビング理論」という昔の説があり、動物は一生のうちに使えるエネルギー量がほぼ決まっていて、心拍数が速いほど寿命が短いという考え方です。
例えば、象もネズミも心臓が一生に打つ回数は同じという説が有名です。

この説を思い出して、「心臓が一生に打つ回数は同じだとすると、高強度運動をやって心拍数を上げると、寿命が短くならない?」と心配する人がいるかもしれません。
しかし、高強度運動で一時的に心拍数が上がっても、それは短時間の出来事で、寿命を縮めるようなものではありません。むしろ運動習慣がある人は安静時の心拍数が下がり、長い目で見ると心臓への負担は軽くなることが多くあります。安心して、適度な範囲での高強度運動を楽しんで良さそうです。
この説を詳しく知りたい方は本川達雄氏の名著、『ゾウの時間 ネズミの時間 ― 生命のサイズと生き方』をご覧ください。
高強度運動は、どこまでなら「やりすぎ」ではないのか
問題はこれで、長くやれば良いというものではなく、やりすぎれば体に良くありません。
WHOガイドラインでは、基本的な有酸素運動の量・強度については次の指針を示しています:
(成人:18〜64歳と高齢者:65歳以上、両方に共通の内容です)
- 中等度の有酸素運動を週150〜300分以上
- または 高強度の有酸素運動を週75〜150分以上
(中等度と高強度の組み合わせでもOK) - 筋力トレーニングを週2日以上

迷ったらまずは週1回の高強度を5分から始めたらいかがでしょうか。
室内でできる「もも上げ」や「スクワット」などが手軽でお勧めです。
高強度運動の成否を握る「スイッチ」:ウォーミングアップ
高強度運動は心臓や筋肉に大きな刺激を与えるため、急にエンジンを全開にするのは禁物です 。
特に中高年層にとって、安全に「体年齢」を若返らせるための鉄則は、運動前の丁寧な準備運動にあります。
- 関節と筋肉の「温度」を上げる:
静止したまま伸ばすストレッチよりも、ラジオ体操のように体を動かしながら筋肉をほぐす「動的ストレッチ」が効果的です。 - 心臓を段階的に慣らす:
運動の開始直後は、まず5〜10分ほど軽いウォーキングや足踏みを行い、徐々に心拍数を上げていきましょう 。 - 「いきなり全開」を避ける:
本番の高強度運動に入る前に、その運動を「ややきつい」と感じる程度(中強度)で数分行い、体がスムーズに動くことを確認してください 。
準備運動は単なる怪我の予防だけでなく、血管を広げて酸素の供給をスムーズにし、メインの運動効果(VO2maxの向上など)を最大限に引き出すための大切な手順です 。
高強度運動の後に大切な「回復」と「メンテナンス」
高強度運動の効果は、運動そのものではなく、その後の回復で決まると言っても過言ではありません。
回復を高めるには、次の点が大切です:
① 休養
- 高強度の翌日は中強度か休養
- 睡眠時間を削らない
② 栄養
- たんぱく質(筋修復)
- 炭水化物(回復促進)
- ミネラル(心拍・筋収縮の安定)
③ 体のメンテナンス
- ストレッチ
- 軽いマッサージ
- 違和感があれば中止する勇気
おわりに ~ 楽しくやりましょう
高強度運動は、頑張るためのものではなく、元気でい続けるためのスパイス。
そう考えると、迷いはずっと小さくなるのではないでしょうか。
中高年の方が無理なく楽しみながら続けるための、3つのヒントを紹介します。
- 「完璧」を目指さない:
スマートウォッチの数値や他人の記録と自分を比べすぎる必要はありません。
体調が優れない日は中強度の散歩に留めたり、思い切って休んだりすることも、長く続けるための立派な戦略です。 - 「ご褒美」とセットにする:
高強度運動を頑張った後は、お気に入りの入浴剤でリラックスしたり、美味しいタンパク質メニューを楽しんだりしましょう。
「運動=辛いこと」ではなく、「運動+α=心地よい習慣」と脳に覚えさせることが大切です。 - 「小さな変化」を面白がる:
「駅の階段で息が切れなくなった」「夕方の仕事が楽になった」といった日常の小さな変化に目を向けてみてください。
それこそが、あなたのVO2maxが向上し、「生活の余力」が生まれている確かな証拠です。
高強度運動は、決して自分を追い込むための義務ではありません。
10年後、20年後の自分へ贈る「健康の貯金」だと思って、まずは週に数分、自分なりの「心地よいきつさ」を楽しんでみませんか?






























厚生労働省のガイド 2023の改訂ポイントを解説した専門家論文です。
5ページにある「慢性疾患を有する人についての身体活動推進のまとめ」の表は分かり易く、生活習慣病がある方はご覧になることをお勧めします。