高齢者の体力は10歳若返り! 令和の中高年向け健康寿命の延ばし方

「最近の高齢者はなんか若いね」――そんな風に思いませんか?

テレビを見ていても、50歳台、60歳台の芸能人が昔では考えられない程、若々しく見えます。

これは気のせいではなく、ちゃんとデータにも表れている事実なんです。

スポーツ庁や厚生労働省の調査によると、令和の65歳は、平成初期の55歳とほぼ同じ体力レベル。
握力や歩行速度といった指標が、20〜30年前よりずっと若返っています。

健康長寿を目指している我々には嬉しいニュースですね。

ただし、元気な体を手に入れたからといって油断は禁物です。

せっかく手に入れた「若さ」を無駄にして、この先、病室のベッドで過ごしたいとは思わないし、
子や孫と旅行に行くことを楽しみたいですよね?

これからは「長生きすること」よりも、「健康に生き続けること」が大切です。

この記事では、「令和の65歳がなぜ若いのか?」という理由と、その体力を健康寿命を延ばすのにつなげるヒントをわかりやすく紹介します。

驚きのデータ!「令和の65歳は平成初期の55歳」

スポーツ庁や厚生労働省の『体力・運動能力調査』をご存知でしょうか?

毎年、発表されていますが、最新のデータが10月12日に公開されました。

この統計値の経年変化を見ると次のことが言えます:

男性の場合

  • 令和の65歳男性=平成元年の55歳〜60歳に相当
  • 例えば、令和の65~69歳男性の握力や歩行速度は、平成元年頃の55歳の男性の平均値にほぼ匹敵またはやや上回るレベルです。

女性の場合

  • 令和の65歳女性=平成元年の50歳〜55歳相当
  • 女性の握力や歩行速度の改善が著しく、令和時代の65歳女性は約10~15年前の50歳台前半相当まで若返っています。
  • 女性は男性より体力の若返り幅が大きく、令和の65歳女性の体力は平成元年の50歳~55歳の体力に相当します。

女性のほうが体力の若返り幅が大きい? 4つの理由

この理由には次のことがあると考えられています:

  1. 生活習慣の改善への関心が高い
    食生活や体調管理への意識が男性よりも高く、健康番組や雑誌、SNSなどから情報を積極的に取り入れる傾向があります。
  2. 日常的な活動量が多い
    買い物、掃除、料理など、家庭内での身体活動量が比較的多いことも要因の一つです。
  3. 社会参加や人とのつながりが多い
    多くの女性が地域活動や趣味のサークルなど、人との交流を積極的に続けています。
  4. ホルモン変化後の健康意識の高まり
    骨密度や筋力の低下リスクが上がるため、意識的に運動や栄養に気を配るようになります。

寿命と健康寿命のギャップ

せっかく65歳で昔の55歳並みの体力を手に入れても、その後、筋力や活動量が急激に落ちる「フレイル(虚弱)」や、筋肉が衰える「サルコペニア」に陥ってしまっては意味がありません。

一口メモ: 筋力のセルフチェック法

【サルコペニア】
「指輪っかテスト」というふくらはぎ周囲の長さを測る簡単な検査法により、自分でサルコペニアをチェックすることができます。
ふくらはぎの一番太い部分が、両手の親指と人差し指で作った輪っかより小さく、隙間ができる場合、サルコペニアである可能性が高いと考えられます。
(参考:Eisai 『サルコペニアは自分でチェックできる?』)

【運動機能の低下レベル】
立ったり歩いたりする機能が低下していないかどうかを、ロコモ度テストでチェックできます。
詳しいやり方は『諦めないで!ロコモ度テスト「片足立ち上がり」をクリアするコツ』の記事をご覧ください。

長生きすることは素晴らしいことですが、もしその期間の多くを病気や介護に頼って過ごすとしたら、それは「幸せな長生き」と言えるでしょうか。

現在の日本の平均寿命と、健康上の問題で日常生活に制限のない期間を示す「健康寿命」には、次の図のように大きな差があります(参照:厚生労働省『平均寿命と健康寿命』)。

つまり、不健康期間が男性は約8.5年、女性は約11.6年あります。

この長い期間を、楽しかった過去の記憶が薄れ、病院のベッドから空を見上げる日々にしたくないのは誰しもだと思います。

健康寿命を過ぎたら要介護」は誤解!高齢者の8割が自立して生活【厚労省データで検証】』の記事から図を引用

長生き=幸せではなく、「健康で自立して生きられる期間」が重要ですね。

折角、高齢者の体力は上昇傾向にありますから、それを活かして上記の差を短くすることこそが、高齢者の課題だと思います。

一口メモ:ピンピンコロリ(PPK)

ピンピンコロリを目指すには『日常の活動量』が鍵です。

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」では、健康寿命を延ばすために「歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上行うこと(1日約8,000歩以上に相当)」を推奨しています。

筋トレも推奨されていますが、日常的な身体活動が重視されています。

体力が20年前より5歳若返った理由 3つ

健康寿命を延ばし、寿命と健康のギャップを短くするためのヒントを探るために、高齢者の体力がはっきりと向上している理由をみてみたいと思います。

もちろん、医療技術の進歩は大きな要因です。しかし、それ以上に影響が大きいのが、「自助努力」、つまり私たちの意識と行動の変化です。

  1. 運動習慣の浸透:
    内閣府「高齢社会白書」によると、運動習慣のある者の割合は、65–74歳:男性38.0%・女性31.1%、75歳以上:男性46.9%・女性37.8%(2019年)。
    高齢層は若年・壮年より高水準で、定着が運動習慣の定着がうかがえます。
  2. 栄養知識の向上:
    たんぱく質摂取の重要性が浸透し、高齢層のたんぱく質摂取量は相対的に高めとなっています。
    また、食塩摂取量は、減塩の知識普及や減塩食品を買いやすくなったことから、2000年代にかけて低下し、最近は頭打ち傾向。
  3. ツールの進化:
    スマホなどで歩数などの運動量管理や、消費カロリーやPFCバランスなどの栄養管理を便利に行える時代になりました。
    また、坂道や長距離の移動を諦めていた高齢者が電動アシスト自転車の普及により、モーターのアシストを得ながら自分の脚で移動できるようになり、その移動そのものが良い有酸素運動になっています。

今の高齢者は、健康に対する意識が非常に高く、最新の医療や健康に関する情報を積極的に集め、生活に取り入れている人が多いと感じます。

逆に情報機器や情報リテラシーに疎い人は、昔の誤った健康知識に基づいて判断したり、消費者を欺く健康食やサプリメントに手を出して無駄なお金を使ったりします。

『健康格差は情報格差から生まれる』、ですね。

健康長寿を延ばすための生活習慣

向上した「平成の55歳並みの体力」を、いかに「健康寿命」を延ばすために活かすか?
そのための生活習慣を紹介します。

  1. まずは有酸素運動を習慣化
    ウォーキングやサイクリングは、心肺機能を維持するだけでなく、認知機能の低下を抑制する効果も期待できます。毎日20分程度を目安に続けましょう。
    (WHOは「1週間で150分以上の中強度の有酸素運動」を推奨しています。詳しくは『【WHO推奨】健康寿命を延ばす運動量とは?中強度の有酸素運動で無理なく実践』をご覧ください。)
    電動アシスト自転車は「無理せず動く」習慣を支える新しい有酸素運動のツール。
    「しんどいからやりたくない」を「ちょっと頑張ればできる」に変えてくれる電動アシスト機能を賢く活用し、行動範囲を広げましょう。
  2. バランス訓練で転倒を予防
    要介護になる原因として骨折・転倒は第3位(13%)です(参照:厚生労働省の「令和4年 国民生活基礎調査。第1位は認知症で23.6%、第2位は脳血管疾患・脳卒中で19.0%」)。
    テレビを見ながらの「片足立ち」(例:片足立ち30秒 × 左右)や、意識して大股で歩く習慣がバランス能力の維持に直結します。
  3. 筋トレより「動く生活」
    ジムで特別なトレーニングをする時間がないなら、日常の活動量を増やしましょう。
    エレベーターではなく階段を利用する、近所の買い物は徒歩で行くといった「動く生活」を意識するだけで十分な運動になります。
  4. 栄養バランスのとれた食事
    加齢によって食が細くなったり、味覚の変化で塩分が多くなったりすることが多くなりますが、次の点を心がけることで、筋肉や免疫力を保ちやすくなります。
    • たんぱく質をしっかり摂る
      筋肉量の維持には「1日体重1kgあたり1.0〜1.2g」のたんぱく質が目安。
      なお、肝機能障害や慢性腎不全は国民病と言われるくらい患者数が多いですが、これらのようにたんぱく質の摂り過ぎに注意が必要な病気もあるので注意が必要です。
      医師の指導のもと調整をしてください。
    • 野菜・果物で「抗酸化パワー」を強化
      ビタミンC・E、ポリフェノールなど抗酸化成分を多く含む野菜や果物は、老化を遅らせる働きがあります。
    • 減塩・適度な脂質を意識
      高血圧や動脈硬化の予防には、塩分の摂りすぎを控えることが基本です。
      厚生労働省は、1日の塩分摂取量を「男性7.5g未満・女性6.5g未満」を推奨。
  5. 「脳の若さ」を保つ
    健康長寿には、運動だけでなく脳の若さも重要です。
    • 良質な社会的つながりを選ぶ
      目的や価値観が合う人との交流、笑いや共感を伴う会話は脳を広く活性化させます。
    •  “積極的孤独”の時間を持つ
      他人との比較や雑音から離れ、一人で読書・創作・研究・趣味に没頭する時間は、創造性や集中力を高めます。
    • 興味と好奇心を絶やさない
      「知りたい」「やってみたい」という内発的動機こそが、脳を動かす最大のエネルギーです(例:SNSに挑戦する、外国語を始める、プログラミングを学ぶ)。

やってはいけない健康習慣

健康を意識していても、実は逆効果になっている“やりがちな習慣”があります。

あなたは大丈夫か、チェックしながら次のポイントを見てください:

  • 無理な筋トレや過剰な運動
    シニア世代は、筋肉や関節の回復が若い頃より遅いため、急なジョギングや高負荷トレーニングは逆効果になる恐れがあります。
  • 食事を抜く・極端なダイエット
    「体重を減らせば健康にいい」と思いがちですが、筋肉量まで落ちてしまうと基礎代謝が下がり、フレイル(虚弱)の原因になります。
  • サプリや健康食品に頼りすぎる
    栄養補助食品はあくまで“補助”で、3食の食事内容を整えることが最優先です。
    健康食やサプリメントにはその科学的根拠が怪しいものが非常に多いので無駄な出費は控えましょう(詳しくは『【知らないと損】健康食品やサプリの広告に潜む4種類のトリックと賢い選び方』の記事をご覧ください)。
  • 睡眠不足・夜更かし
    体力維持に必要な「成長ホルモン」は、睡眠中に分泌され、睡眠の質が悪いと、筋肉や脳の回復が進まず、免疫力も低下します。
    寝る前にはスマホのブルーライトを避ける、軽いストレッチを行うなど、睡眠の質を高める行動をしましょう。
    また、日中の適度な有酸素運動は夜の深い睡眠を促します。
  • ストレスを放置する
    コルチゾールというストレスホルモンが長く分泌され続けると、筋肉量が減り、血圧や血糖値の上昇を招きます。
    サイクリングは爽快なスピードで景色が後ろに流れていくのを見ながら、四季の移ろいを感じられ、腰や膝にも優しい運動なので、ストレスを発散できます。

健康づくりの基本は「中庸(ちゅうよう)」です。

食事・運動・休養のバランスを意識し、「やりすぎない・我慢しすぎない」を心がけることが、長く元気に過ごす秘訣と言われています。

おわりに:いま求められるのは「長寿」より「健康寿命」

「令和の65歳は、平成の55歳の体力」―― これは素晴らしい快挙。

せっかく手に入れた“若い体力”を、介護のいらない自立した生活のために活かし、健康寿命を延ばすことが、次の課題ではないでしょうか。

まずは今日から、1日20分のウォーキングや、たった30秒の片足立ちなど、無理のない一歩を踏み出して継続しましょう。

次は、「令和の75歳”は平成の65歳の体力」、そんな未来にしたいですね!

参考文献
  • 厚生労働省資料『高齢者の身体機能等の現状
    「現在の高齢者においては、10〜20年前と⽐較して、加齢に伴う⾝体・⼼理機能の変化の出現が5~10年遅延しており、「若返り」現象が⾒られている。」
  • PRESIDENT Online『日本の高齢者は20年前よりも10歳は若返っている
    「この20年間に、高齢男性は5歳以上、高齢女性は10歳程度、体力的に若返ったと見なすことができる。」
  • 社会実情データ図録
    「体力テストの点数から見ると、男性については、70代前半の現在の体力はほぼ2000年代はじめの60代後半の体力に匹敵している。
    また女性の70代前半の現在の体力はほぼ2000年代半ば過ぎの60代後半の体力に匹敵している。すなわち、男性はほぼ20年では5歳若返り、また女性はほぼ10年で5歳若返ったといえよう。」

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