通勤中にスマホを見ながら自転車に乗っている人を見かけたことはありませんか?
その行為、実は“車の免停”につながるかもしれません。
「自転車の交通違反とクルマの免許は関係ないじゃないか?なんでそうなるの?」と思いませんか?
車の免許を保有していて、自転車にも乗る人は非常に多いので、決してごく一部の人の問題ではありません。
2026年4月からは自転車に対する青切符制度の実施が始まりますが、違反を繰り返すなど悪質な場合、車の免停もあり得ます。
この記事では、「自転車の違反が車の免停につながる仕組み」について、その法的根拠と具体例を分かりやすく解説します。
目 次
なぜ自転車違反で車の免停に? 背景にある“厳罰化”の流れ
なぜ、今、自転車の違反に対して厳しく目が向けられ、車の免許にまで影響が及ぶようになったのでしょうか?
背景にあるのは、次の2点です。
- 自転車事故の増加と悪質化
自転車の交通ルール無視による重大な人身事故が多発しています。
特に「飲酒運転」や「信号無視」、「スマートフォン操作によるながら運転」などの悪質な違反が、事故につながるケースが問題視されています。 - 警察・公安委員会の「厳罰化」への明確な姿勢
自転車事故の増加を受け、警察や公安委員会は、悪質な自転車運転者に対する取り締まりや行政処分を強化しています。
これが、「車の運転免許への処分」という形で現れていて、近年、警察庁は全国で「自転車指導警告制度」を強化し、悪質違反者に対しては安全講習や免許停止処分も辞さない姿勢を打ち出しています。
例えば、大阪府では2024年以降、自転車違反を理由とした免停処分が年間300件を超えるなど、運用実績も増えています。
このような自転車での違反が自動車免許に影響を及ぼす背景には、次に説明する「危険性帯有者」として処分できる法律上の仕組みがあります。
「危険性帯有者」とはどんな人?
「危険性帯有」とは、「その人が自動車を運転すれば著しく交通の危険を生じさせるおそれがあると判断された状態」を指します。
このような人は「危険性帯有者」と呼ばれ、公安委員会が免許の停止や取り消しといった行政処分を行うことができます。
これは、以下のような要素をもとに総合的に判断されます。
- 違反内容が他人の生命・身体に対して危険を及ぼすものであること
- 違反が反復・常習的に行われていること
- 警察官の指導・警告を無視していること
- 事故発生後に逃走、または責任を免れようとする態度があること
- 飲酒・薬物など、判断能力を著しく欠く状態での運転
例えば、歩行者との接触事故が軽微でも、繰り返せば“危険性帯有者”と判断されることもあるということですね。
車の違反による免許停止・取消しは、通常、違反点数の累積によって行われます。
しかし、自転車違反による車の免停は、この「点数制度」とは全く別の処分制度、つまり、「危険性帯有者」として行政処分を受けるということです。
法的根拠は『道路交通法 第103条 第1項 第8号』
この仕組みの根拠となるのが、道路交通法第103条第1項第8号で、次のように定められています。
「公安委員会は、運転免許を受けた者が自動車等を運転することにより、
著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあると認めるときは、
免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めてその効力を停止することができる。」
参考リンク:鳥取県警察『自転車運転者の運転免許の行政処分について』
この条文に基づき、「危険性帯有者」と認定された人に対しては、公安委員会が免許停止(30日〜180日)や免許取り消しの処分を行うことができます。
処分の流れと仕組み
「危険性帯有」に基づく行政処分は、次のような手順で行われます。
- 警察が違反内容や事故状況を調査・報告
- 公安委員会が「危険性帯有」に該当するかを審査
- 該当すると判断された場合、免許停止または取り消しを決定
- 本人に通知・意見聴取の機会を与えたうえで処分確定
つまり、公安委員会による行政判断で免許が停止されるという点が特徴です。
公安委員会から通知が来た!「意見聴取」での適切な対処法
公安委員会による審査の結果、あなたに対して免許の停止や取り消し処分が下される見込みとなった場合、処分が確定する前に「意見聴取」の機会が与えられます 。
こんな通知書が届いたら、冷や汗が出ますよね・・・心臓によくありません。
この「意見聴取」は、処分を決定する前に本人の言い分を聞くための、行政手続上の重要な機会であり、通知を受け取った人にとっては処分軽減の可能性がある最後のチャンスです。
もし、通知が来たら、次の点に注意して適切に対処する必要があります。
- 必ず出席する
意見聴取への欠席は、自身の主張を放棄したと見なされ、処分が予定通り確定してしまう可能性が高くなります。 - 反省と再発防止策を具体的に示す
違反行為に対する深い反省と、今後、自動車や自転車を運転する際に具体的な再発防止策を講じる意思を明確に伝えることが重要です。
例:「自転車にドライブレコーダーを装着する」
例:「スマートフォンはカバンにしまい、運転中は一切触らない」
例:「家族に協力してもらい、運転前に飲酒の有無をチェックしてもらう」 - 情状酌量の余地を示す資料を準備する
状況を証明し、情状を考慮してもらうための資料を提出すると、処分が軽減される可能性があります。- 違反に至った経緯についての詳細な反省文
- 地域でのボランティア活動など、普段の真面目な生活態度を証明する資料
- 家族の生活において自動車の運転がいかに不可欠であるかを具体的に説明した資料(通院、仕事での使用証明など)
- 行政書士や弁護士に相談
「危険性帯有」に基づく処分は、法的判断が複雑です。
不安がある場合は、交通法規に詳しい行政書士や弁護士に事前に相談し、アドバイスを受けてから意見聴取に臨むことも検討した方がよいでしょう。
自転車でも対象となる典型的なケース
警察庁や各都道府県の運用基準では、例えば、次のようなケースが「危険性帯有者」として処分の対象になり得ます。
| 違反 | 内容 |
|---|---|
| 酒酔い・酒気帯び運転 | 最も危険性が高い違反。道路交通法上も明確に禁止され、アルコール検出時点で検挙対象。自動車免許保持者は、自転車であっても免停・取消処分の可能性あり。 |
| 信号無視・一時不停止の常習違反 | 1回では注意で済むが、再三の違反・悪質な運転態度が続くと「道路交通の危険を生じさせるおそれあり」と判断。歩行者や車両の事故誘発リスクが高い。 |
| スマートフォン操作・イヤホン使用など“ながら運転” | 注意力散漫による重大事故の原因。特に片手運転+無灯火などの複合違反は、近年「危険運転常習者」として扱われる傾向。 警察庁も“ながらスマホ運転”を重点取り締まり対象に指定。 |
| 人身事故を起こして逃走(ひき逃げ) | 歩行者や他の自転車との接触後に逃走した場合、「事故後救護義務違反」として極めて悪質。 道路交通法上のひき逃げ扱いとなり、免許停止・取消の対象。 |
| 夜間の無灯火・逆走・歩道暴走などの危険運転 | 夜間無灯火での高速走行や、車道逆走、歩行者の間を高速ですり抜ける行為は「危険性帯有」とされやすい。 特に事故や転倒を繰り返している人は、再発の可能性が高いと判断される。 |
これらの行為は、「自転車だから軽い違反」とは見なされません。
むしろ「自転車でもここまで危険な運転をする人は、自動車を運転しても危険」と判断されるのです。
補足ですが、自転車に対する赤切符の制度は以前からありましたが、2026年4月からは自転車に対する青切符制度の実施が始まります。
青切符制度は点数制度と紐づかないため、青切符の反則金納付は、点数累積による免停には直結しません。
しかし、上記のように常習性があるなど、悪質と判断されると「危険性帯有者」として免停などの処分につながることがあります。
なお、青切符制度の対象は16歳以上の人ですが、赤切符制度には年齢制限はありません。
(ただし14歳未満は刑事処分を受けない「刑事未成年」にあたるため、家庭裁判所に送致されるなど、少年法に基づいた対応になります。)
お子様がいる場合、自分の子供にも自転車の安全運転をよく言い聞かせる必要があるということですね。
下表は赤切符(危険性が高い、または重大な違反に対して科される刑事処分)の罰則の例です。
| 赤切符の違反行為 | 罰則 |
|---|---|
| 飲酒運転 | 3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金 |
| あおり運転(妨害運転) | 状況に応じて懲役または罰金(刑事罰の対象) |
| ながらスマホで事故や危険を生じさせた場合 | 1年以下の懲役 または 30万円以下の罰金 |
| ながらスマホ(危険を生じさせていない場合でも悪質と判断) | 6か月以下の懲役 または 10万円以下の罰金(2024年11月施行の罰則強化) |
| ハンドルから手を離して運転し、歩行者に衝突・ケガをさせた場合 | 過失傷害罪などが適用。懲役または罰金。重大事故では危険運転致傷に準ずる処罰の可能性あり |
次の表は青切符(軽微な交通違反に対して反則金を科す行政処分)の反則金の例です。
| 青切符の違反行為 | 反則金 |
|---|---|
| 遮断踏切への立入り | 7,000円 |
| 自転車のブレーキ不良(制動装置不良) | 5,000円 |
| ながらスマホ(手で保持) | 12,000円(青切符で最も高額) |
| 歩道でスピードを出して歩行者を妨害 | 6,000円(歩行者通行妨害) |
| 信号無視で車に急ブレーキをかけさせた場合 | 6,000円 |
| 傘差し運転や一時不停止違反 | 5,000円 |
| 警察官の指導に従わず右側通行を継続 | 6,000円 |
| 警察官の前で無視して信号違反 | 6,000円 |
詳しい説明や刑罰・反則金額については『自転車の青切符・赤切符|即、切られる違反行為と罰則一覧』の記事をご覧ください。
実際に行われた「危険性帯有」による免停処分の例
次の例はいずれも、「著しい危険性を帯びている」と公安委員会が判断したケースです。
- 大阪府(2025年)
自転車の悪質運転を理由に「危険性帯有者」として免許停止処分が347件。
出典:産経新聞「車で違反しなくても…自転車の違反で車の免停347件」 - 高知県(2024年)
自転車の酒気帯び運転で県警に摘発された南国市内の40代男性を運転免許停止処分。
出典:高知新聞「自転車酒気帯びで免許停止 高知県内初、40代男性処分」 - 奈良県(2012年)
自転車でバイクと接触事故を起こし、相手が負傷したのに現場から逃走してしまった男性(61)を運転免許停止処分。
出典:JCAST「ニュース自転車で事故起こして運転免許停止 「それは本当なのか」と驚きの声」
自転車乗用者・車運転者双方としての注意点
この制度は、私たち一人ひとりが「交通参加者」としての自覚を持つことの重要性を教えてくれています。
🚗 自転車運転者として
- 飲酒運転は絶対にしない: 車と同様に、自転車の飲酒運転は極めて悪質と判断されます。
- 「特定危険行為」をしない: 信号無視、一時不停止、歩行者妨害、遮断機が降りた踏切への侵入など、罰則が強化されている危険行為は厳に慎みましょう。
- 保険への加入: 万が一事故を起こした場合の賠償に備え、自転車保険(または個人賠償責任保険)への加入は必須です。
自転車保険義務化の説明や自転車保険加入のポイントについては『自転車事故の賠償金で老後破綻を防ぐ!自転車保険義務化の背景と加入のポイント』の記事をご覧ください。
🚘 車運転者としての自覚
- 「自分が歩行者や子どもの立場だったら?」と想像する
狭い歩道をスピードを出して走ったり、信号直前で無理に渡ったりしていませんか。 - 「車を運転していない時こそ、運転者の品格が問われる」と肝に銘じる
「車を運転する資格」は、道路交通法という枠組みの中で、車だけでなく自転車や歩行者も含めた交通社会全体でルールを守れる人に与えられています。
結論:報道に踊らされず「冷静な理解」を持とう
自転車の違反で車の免停処分が下されるのは、決して「自転車だから」罰せられているのではありません。
「悪質な違反者には、命を預かる乗り物を運転する資格を持たせない」という、法律に基づく冷静な判断です。
私たちは、『自転車の違反で車の免停になった!』というニュースに過度に不安になるのではなく、「自分は車も自転車も、交通ルールを守って安全運転をする」という意識を再確認する良い機会と捉えるべきだと思います。



























