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「テニスが一番寿命を延ばす」と聞いてビックリしませんか?
ある日、テニス好きの知人が自慢げにこんな話をしてきました。
「テニスが健康に一番良くて、寿命が9.7年も延びるらしいよ!」
気になって調べてみると、たしかにそのような見出しの記事がネット上で話題になっていました。
出典:PRESIDENT Online
『3位はサッカー、2位はバドミントン、1位は…これをやれば長生きできる「寿命を9.7年延ばす」運動の種類【2024上半期BEST5】』
https://president.jp/articles/-/85547?page=1
私は長年サイクリングを続けてきたので、この記事にサイクリングが4位と書かれているのを見つけて、「それ本当?」と思わず眉をひそめてしまいました。
こうした「寿命が延びるスポーツランキング」はインパクトがあり、SNSでも多く拡散されているので、あなたもこの記事を見たかもしれませんね。
もちろん、テニスは素晴らしいスポーツです。
しかし、こうしたランキングだけを信じて自分に合った運動を見失ってしまうとしたら… それは本末転倒です。
今回の記事では、「テニス最強説」の根拠となった研究の内容を詳細に検討しながら、健康情報の受け取り方と、自分にとって本当に意味のある運動の選び方を一緒に考えてみたいと思います。
記事で引用されている「コペンハーゲン調査」とは?
上記の「寿命が延びるスポーツランキング」という記事のネタ元は、デンマークで実施された「コペンハーゲン市心臓研究(Copenhagen City Heart Study)」という長期疫学調査です。
この研究では、30歳以上の男女約8,500人を25年〜30年にわたり追跡調査し、さまざまなライフスタイルと寿命の関係が分析されました。
その中で、運動の種類ごとの寿命延長効果が以下のように報告されました。
寿命が延びる運動ランキング(平均延長年数)
以下は、寿命延長効果が高い運動の一覧です
順位 | 種目 | 平均寿命延長 |
---|---|---|
1位 | テニス | +9.7年 |
2位 | バドミントン | +6.2年 |
3位 | サッカー | +4.7年 |
4位 | サイクリング | +3.7年 |
5位 | 水泳 | +3.4年 |
6位 | ジョギング | +3.2年 |
7位 | 健康体操・エアロビ | +3.1年 |
8位 | ウェイトトレーニング | +1.5年 |
このデータを見ると「テニスが最強!」と飛びつきたくなるかもしれません。
また、冒頭で紹介したPRESIDENT Onlineの記事では
「おもしろいのは、テニス、バドミントン、サッカーと、上位3つがいずれも球技であること。ジョギングやヘルスクラブでの活動は基本的に個人参加型の運動であるのに対し、球技は参加者どうしのコミュニケーションが生まれることに違いがあるのかもしれません。
ですから、ジョギングのように1人で孤独になって走るようなスポーツではなく、運動仲間がつくれるような運動がよいと思います。」と書かれています。
でも、本当にそうなのでしょうか?
1人でできる運動には、仲間が必要な運動にはないメリットが多くありますよね。
この記事の主張をそのまま鵜呑みにしてもいいのでしょうか?
数字の落とし穴:「因果関係」ではなく「相関関係」
私たちはつい「ランキング」や「数字」を信じてしまいがちです。
しかし、このデータが示しているのは、テニスをしていた人に寿命が長い傾向があったという「相関関係」であって、テニスをやったので寿命が延びたという「因果関係」ではありません。
たとえば、夏になると「ビールの売上」と「海での水難事故」がどちらも増え、相関関係があります。
しかし、ビールを飲んだから溺れる、という因果関係があるわけではありません。
これは「暑さ」という共通要因が影響しているために相関関係があるのです。

🧠 テニスの話も同じこと
今回の研究でも、「テニスをしている人が長生きしていた」という相関は見られましたが、それはテニスそのものが原因とは限りません。
(そもそも、この研究は、デンマークの中高年層が主な対象であり、必ずしも日本人に当てはまるとは限りません… )
たとえば、テニスをする人は…
- 経済的に余裕がある
- 健康意識が高い
- 医療や予防ケアにも積極的
- 社会的なつながりが強い
といった背景のある人が多かった可能性があります。
つまり「テニスをしているような生活スタイル」が寿命に影響していたとも考えられるのです。
コペンハーゲン市心臓研究(Copenhagen City Heart Study)」の論文にも「様々なスポーツが、それぞれ著しく異なる平均寿命の延長と関連している。本研究は観察研究であるため、この関係が因果関係にあるかどうかは不明である。」と明記されています。
「真に健康効果のある運動」は人によって違う
「テニスが寿命を最も延ばす」と聞けば、「自分もやってみようかな」と思う方もいるかもしれません。
しかし、運動は“向き・不向き”や“年齢・体力”によって、効果もリスクも変わってくるのです。
例えば、テニスには、こんな心配もあります:
(参考:横井スポーツ外科 健康スポーツクリニック「テニスにおける怪我・障害」 https://x.gd/zbUYf )
- ストップ&ダッシュの繰り返しが多く、膝や足首に大きな負担がかかる
- 動きが激しく、転倒や肉離れなどのリスクも高い
- 気温が高い日や、慣れていない人にとっては熱中症や心臓への負担も懸念される
特に中高年の方にとっては、「いきなりテニスを始める」ことがケガや体調悪化の引き金になってしまい、かえって健康寿命を短くする可能性さえあります。
また、ランキングが2位のバドミントン、3位のサッカーも激しいスポーツで、やはり中高年には上記のようなリスクがあります。
これに対して、私が続けているサイクリングはこうした点でとても優れています。
おかげで何十年も乗り続け、高齢者となった今でも、ロングライドやヒルクライムを楽しんでいます。
- 膝や関節にやさしい
- 自分のペースで無理なく運動できる
- 自然の中を走る爽快感がある
- 電動アシストを使えば高齢者でも続けやすい
自転車の健康効果にかんするエビデンス(証拠)については、こちらの記事をご覧ください:
一番寿命を延ばすのは「自分に合って続けられる運動」
世界保健機関(WHO)は、健康のために週150分以上の中程度の有酸素運動を推奨しています。
WHOの推奨に関するより詳しい説明は次の記事をご覧ください。
この目標を達成するにはハードなスポーツでなくても、以下のような運動で十分達成可能です。
- ウォーキング
- サイクリング
- ジョギング
【運動療法の種類】
(引用: 日本泌尿器科学会「LOH症候群診療の手引き」https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/44_loh.pdf?utm_source=chatgpt.com )
運動療法という概念は,生活習慣病に代表される疾患の予防や治療に運動を活用することであり… 有酸素性運動は比較的低い強度で長時間続けることが可能な運動であり,主に心肺機能の向上を目的として実施される。
具体的には,ウォーキングやエアロビクス,水泳,ジョギング,サイクリングなどがあげられる。
大切なのは「自分に合っていて、楽しく続けられること」。
誰かにとっての“1位”が、あなたにとってのベストとは限りません。
むしろ、「疲れすぎない」「気持ちいい」「続けやすい」と感じる運動こそが、長期的には最大の健康資産になります。
あなたに合った運動を見つけるためのヒント
「どんな運動が自分に合っているのかわからない」と感じている方は、以下のチェックリストを使ってみてください。
あなたにとって続けやすく、効果の出やすい運動が見えてくるはずです。
- 「続けやすさ」
□ 忙しい日常の中でも、すきま時間にできる
□ 移動や準備にあまり手間がかからない
□ 雨の日や寒い日でも代替手段(室内など)がある
□ 特別な道具や高額な費用がかからない
- 「身体への負担」
□ 関節や腰への負担が少ない(特に中高年は要チェック)
□ 疲労感が翌日に残りにくい
□ 体力や年齢に応じてペース調整できる
□ 医師や理学療法士に止められていない運動である
- 「楽しさ・モチベーション」
□ 単純にやっていて「楽しい」「気持ちいい」と感じる
□ 終わったあとに「やって良かった」と思える
□ 自然と続けたくなるような気分転換効果がある
□ 一人でもできるが、仲間と一緒に楽しむことも可能
- 「生活習慣との相性」
□ 通勤・買い物・外出などと組み合わせてできる
□ 無理なく週2〜3回以上続けられそう
□ 生活のリズムの一部として組み込めそう
□ 家族や周囲の理解・協力が得やすい
これらのチェック項目に多く当てはまる運動ほど、あなたに合っている可能性が高く、寿命を延ばす「続けられる運動」と言えるでしょう。
たとえ「ランキングで1位の運動」ではなくても、あなたにとって無理なく、気持ちよく続けられることが最重要です。
まとめ: 情報をうのみにせず、“自分”を信じて
「テニスが寿命を一番延ばす」という話題は、確かに話のネタとしてはおもしろいです。
でも、その裏には「相関と因果の違い」や「生活スタイルの背景」など、見逃しやすい本質があり、うのみにはできません。
自分に合わない運動を無理に始めるよりも、自分の体と心にフィットする運動を、楽しみながら続けることが大切です。
それこそが、人生の質を高め、結果として寿命を延ばす一番の近道になるはずです。