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高齢者にとっての「自転車」という移動の選択肢
高齢になると、運転免許の返納をきっかけに外出の機会が減ってしまったりすることもあります。

「バスや電車も不便で、つい家にこもりがち…」
実は、外出の頻度が減ることは、身体的な衰えだけでなく、気持ちの落ち込みや認知機能の低下にもつながることがわかっています。
そこで、今あらためて注目されているのが「自転車」です。
実は最近、10年にわたる大規模な追跡調査によって、高齢者が自転車に乗ることが健康寿命の延伸につながるという、驚くべき研究結果が発表されました。
今回はその研究のポイントをわかりやすくご紹介しながら、なぜ自転車が高齢者にとって理想の“健康法”であり“移動手段”なのか、具体的な体験談や安全に楽しむための工夫も交えてご紹介していきます。
研究で判明!自転車が要介護・死亡リスクを下げる理由
2025年3月、筑波大学などの研究チームが発表した長期追跡調査によって、高齢者にとっての自転車の健康効果が、科学的に裏付けられました。
(参照:TSUKUBA JOURNAL「自転車利用は健康寿命延伸のカギで、車の非運転者では特に重要」 https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20250328140000.html )
この調査は、茨城県に住む高齢者6,000人以上を対象に、2013年から2023年の10年間にわたって実施されたものです。
結果は驚くべきものでした。
週に1回・10分でも自転車に乗っていた人は、まったく乗っていない人に比べて、要介護になるリスクも死亡リスクも明らかに低かったのです。
さらに研究チームは、次のようなポイントに注目しました。
🚴♂️驚きの研究結果:わずかな乗車でも効果あり!
- 短時間の自転車利用でも健康効果が認められる
→ ほんの少しの乗車時間でも、身体に良い影響が現れることが確認されました。
週に1〜2回程度の利用でも、健康面で有意な差が見られたのです。 - 定期的な継続がカギ
→ 調査開始から4年間、自転車利用を継続していた人は、その後6年間の要介護・死亡リスクがさらに低下。
「乗り続ける」ことが、健康寿命を延ばすポイントだとわかりました。 - 途中から始めた人にも効果が!
→ 興味深いのは、自転車に「あとから乗り始めた人」にも効果があったということ。
特に車を運転しない高齢者においては、「乗り始めただけ」でも要介護リスクの低下が見られたのです。
このように、今回の調査では、自転車が「ただの移動手段」ではなく、高齢者の心身の健康を守る“ライフライン”としての役割を果たしていることが明らかになりました。
そして研究チームは、これらの結果を踏まえて、次のように述べています。
高齢者の自転車利用は健康寿命の延伸に寄与する重要な生活習慣であり、特に車を運転しない高齢者にとっては、その恩恵が大きい。
よって、運転免許返納が進む今、社会全体で高齢者の自転車利用を支援する取り組みが望まれる。
つまり、ただ「自転車に乗りましょう」と呼びかけるだけではなく、高齢者が安心して自転車に乗れる環境や制度づくりが必要だという強いメッセージが込められています。
なぜ自転車が健康に効くのか?科学的に見た4つの理由
それでは、どうして自転車がこれほどまでに高齢者の健康に良い影響を与えるのでしょうか?
ポイントは、運動のしやすさ・続けやすさ・気分転換のしやすさにあります。
① 🫀 有酸素運動として優秀
自転車に乗ることは、ウォーキングや水泳と同じく有酸素運動に分類されます。
この種の運動は、心肺機能を高め、血流を促進し、血圧や血糖値を安定させるなど、全身の健康維持に欠かせない運動です。
世界保健機関(WHO)も、健康を維持するためには、「中強度の有酸素運動を週に150分以上行うこと」を推奨しています。
とはいえ、年齢を重ねると、ウォーキングで中程度の強度(軽く息が上がる程度)を保つのは意外と大変。
歩いているつもりでも、心拍数がなかなか上がらず、運動効果が出にくいこともあります。
その点、自転車なら比較的ラクに心拍数が上がり、しっかり有酸素運動としての効果が得られるのが魅力。
「きつくないのに、ちゃんと運動になっている」――これこそが、自転車の大きなメリットです。
② 🦵 関節にやさしく、ラクに遠くまで行ける
加齢とともに膝や腰など関節の痛みを抱える人が増えますが、自転車は体重がサドルに分散されるため、膝や足への負担が少ないという利点があります。
歩くのはしんどい距離でも、自転車ならスイスイ。
行動範囲が広がることで、生活の楽しみも増え、日常にハリが生まれます。
③ 😊 気分転換と社会参加にぴったり
自転車で近所の公園や商店街を訪れるだけでも、季節の移ろいや人とのふれあいを感じられます。
こうした外出は、認知機能の維持や、うつ予防にも良い影響があることがわかっています。
「買い物」「お参り」「花を見に行く」など、目的を持って出かけることは、暮らしにリズムを生み出してくれるのです。
④ 📅 日常に自然に取り入れられる
特別な運動時間を確保しなくても、「ちょっとコンビニまで」「図書館に本を返しに」という普段の行動が運動になります。
これが、自転車の最大の強みです。
継続できる運動=習慣化しやすい運動という意味で、自転車ほど高齢者に適したツールはないかもしれません。
高齢者が安全に自転車を楽しむための3つの工夫
自転車は手軽で便利な移動手段ですが、安全に乗り続けるための準備や配慮も大切です。
とくに高齢になると、転倒や事故のリスクも高まるため、以下のポイントを押さえておきましょう。
このように、ちょっとした準備や工夫をすることで、自転車は「安全で楽しい健康習慣」になります。
① 坂道の多い日本では「電動アシスト自転車」が心強い味方
日本は意外と平坦な道が少なく、数キロ走れば必ずといっていいほど坂道が出てきます。
筋力が衰えがちな高齢者にとって、これは大きなハードルになることもあります。
そこでおすすめなのが、電動アシスト自転車です。
- 坂道や向かい風でも、少ない力でスムーズに走れる
- 疲れにくいので、移動距離が自然と伸びる
- 「乗るのが億劫…」という気持ちになりにくく、継続しやすい
さらに注目したいのは、「電動アシスト自転車でも立派な有酸素運動になる」という点です。
実際、国内外の研究によって、電動アシスト自転車を使っても心拍数がしっかり上がり、運動強度としても中程度以上になることが明らかになっています。
つまり、ラクに感じるのに、体にはしっかり効いているという“理想的な運動”なのです。
高齢者が無理なく安全に、かつ健康効果も得られるという意味で、電動アシストは「今こそ乗るべき一台」と言える存在です。
高齢者向け「自転車安全講習」で正しく、安心して乗る
自転車は便利な反面、「交通ルールや危険への対処」を知っていないと事故の原因にもなります。
最近は、自治体や警察が無料で開催している「高齢者向け自転車安全講習」があります。
内容は…
- 最新の交通ルールの確認
- 実技を通じた安全運転の練習
- 自転車事故の事例紹介と対策
講習を受けることで、自分の運転に自信が持てるようになるだけでなく、家族も安心できます。
また、警視庁のWebページ「高齢者等の交通事故防止」にも参考になる情報が載っています。https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/koreisha/index.html
ヘルメットと保険はマスト!
2023年4月から、すべての自転車利用者にヘルメット着用が努力義務となりました。
頭部を守ることは、万が一の転倒時に命を守ることにつながります。
自治体によっては自転車用ヘルメット購入に対する補助金・助成金を出しているところがあります。
全国の市区町村の補助制度の詳細は、株式会社オージーケーカブトと産経デジタルが共同で調査し、PDF形式の一覧表として公開されています。
これには補助金の上限額、対象年齢、購入条件などが記載されています:
https://www.ogkkabuto.co.jp/about/topics/2024/06/subsidy-report.html
また、自転車事故による高額な損害賠償事例も増えており、自転車保険への加入も重要です。
自治体によっては加入が義務化されているところもありますので、確認しておきましょう。
高齢者が安心して自転車に乗れる社会へ:支援のあり方
次は、個人の努力だけでなく、社会全体で支える必要性について考えたいと思います。
ここまで見てきたように、自転車は高齢者の健康寿命を延ばすうえで非常に有効な手段です。
しかし、自転車を利用したくても「環境が整っていない」「経済的に難しい」などの理由で断念せざるを得ない人が多いのも現実です。
免許返納と移動手段の確保はセットで考えるべき
近年は、高齢ドライバーによる事故を防ぐ目的で、運転免許の自主返納が推進されています。
これは重要な取り組みですが、その一方で「車を手放したら外出しづらくなった」「買い物も通院も不便に」という声も少なくありません。
運転免許の返納を安心して選べるようにするには、代わりとなる“移動の手段”を用意することが不可欠です。
その一つの選択肢が、「安全に乗れる自転車」なのです。
安心して乗れる環境づくりと、経済的支援が必要
高齢者が自転車を安心して利用するためには、個人の工夫だけでなく、社会の支援やインフラ整備が必要です。
とくに深刻なのは、「買いたくても買えない」という声です。
年金収入だけで生活している高齢者の中には、衣食住で精一杯という人も少なくありません。
そうした方々にとって、電動アシスト自転車のように数万円以上かかるものは、簡単には手が出せないのが実情です。
そのため、国や自治体による購入補助や貸出支援など、経済的支援の充実が不可欠です。
厚生労働省の調査によると、高齢者世帯のうち年金収入だけで生活している人の割合は約25〜42%にのぼるとされています。
また、「生活が大変苦しい」「やや苦しい」と感じている高齢者世帯は全体の50%を超えているというデータもあります。
つまり、多くの高齢者にとって、自転車の購入すら簡単ではないのが現実です。
そのため、自転車を活用した健康づくりを広げるためには、電動アシスト自転車の購入補助や貸出支援など、公的な経済的支援が強く求められています。
東証マネ部「「年金のみで生活している世帯」が急減しているのは本当か」https://money-bu-jpx.com/news/article041327/?utm_source=chatgpt.com
社会にとっても、大きなメリットがある
高齢者が自転車に乗って健康になれば、要介護を防ぎ、医療費や介護費用の削減にもつながります。
さらに、元気な高齢者が地域の中で外出し、買い物をし、人と会い、活動的になることで、地域社会全体が明るく活気づくという大きな効果も期待できます。
つまりこれは、「高齢者の健康」の問題にとどまらず、日本全体の未来に関わる社会的な課題でもあるのです。
自転車は「健康」「移動」「楽しみ」を兼ね備えた最高のツール
社会全体で支えることで、自転車は単なる移動手段ではなく、高齢者のQOL(生活の質)を高めるライフラインになります。
「自転車に乗りたい。でもちょっと怖い、ちょっと高い」――そんな高齢者が、安心して乗れる未来を、私たちみんなでつくっていくことが求められています。
まとめ:今からできる「健康サイクル生活」のすすめ
ここまでご紹介してきたように、自転車は高齢者の健康寿命を延ばし、要介護リスクや死亡リスクを下げるという、科学的にも裏付けられた効果があります。
特に、運転免許を返納したあとでも「外に出て、自由に動ける手段」として、自転車は心強い味方になります。
🚴♀️今からでも、遅くない
研究によれば、「週1回、10分程度」からでも効果があり、途中から乗り始めた人にも健康効果が見られました。
つまり、今から始めても、遅くはないのです。
今日、自転車にまたがってみませんか?その一歩が、あなたのこれからをきっと変えてくれます。
高価なスポーツバイクや長距離サイクリングは必要ありません。
まずは近所のスーパーや公園へ、気軽に乗ってみるところからスタートしてみてはいかがでしょうか。
🛠社会とつながる「足」としての自転車
自転車に乗ることで、体が元気になるだけでなく、心も軽くなり、外の世界とのつながりが生まれます。
地域での活動が広がり、人とのふれあいや自然との出会いが、日々の暮らしにハリをもたらしてくれます。
🌱一人ひとりの行動が、社会を元気にする
そしてもうひとつ。
高齢者が元気に自転車で出かける姿は、周囲の人々にも良い刺激となり、地域に活気をもたらします。
自転車は、まさに「健康」「移動」「楽しみ」の三拍子がそろった、人生の味方です。
「ちょっとだけ、外に出てみようかな」
そんな気持ちが、きっとあなたの毎日を変えてくれます。
今日から、あなたも自転車のある暮らしを始めてみませんか?
「車を手放したら、もう遠くには行けない」