ご存知でしょうか? 日本の自転車ヘルメット着用率に大きな地域差があることを。
この記事では、自転車先進国オランダとの比較も交えて、日本の自転車事情の「いま」とヘルメットの命を守る重要な役割をみていきたいと思います。
目 次
自転車ヘルメット着用率は地域によって大きな違いが
「自転車に乗る時、ヘルメットって必要なのかな?面倒だし、ちょっとダサい気もする…」
このように思ったことはありませんか?
最近、びっくりしたのが、今年7月に行われたヘルメット着用率の調査結果です。
都道府県によって着用率がメチャクチャ違うではありませんか!
次の図のように、トップの愛媛県では、10人中7人がヘルメットをかぶって自転車に乗っていますが、ワーストの大阪府では、20人に1人しかかぶっていません!… 差があり過ぎ! 😮

この大きな差は一体なぜ生まれたのでしょうか?
愛媛県でヘルメット着用率が高くなったきっかけは、10年前に立て続けに起こった高校生の自転車と自動車との衝突による死亡事故だったそうです。
(参照: TBS NEWS DIG 「【自転車ヘルメット着用率ランキング】全国1位は愛媛県 きっかけは高校生の死亡事故 県が独自の施策」 https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1463713 )
悲惨な事故を受けて、愛媛県では全ての県立高校の校則で高校生のヘルメット着用義務化を決め、当初はヘルメットの無償配布や購入補助も行ったそうです(現在ではこの支援は行われていません)。
この高校生のヘルメット着用に触発されて、他の多くの人たちもヘルメットをかぶるようになったとのことです。
また、着用率が2番目に高い大分県の場合も、2021年度から県立学校に自転車通学する時はヘルメット着用を義務化していて、その影響で他の人もかぶるようになったようです。
(参照:TOSオンライン 「自転車用ヘルメットの着用率「大分県48.3%」全国2番目に 県立学校では2021年度から義務化」 https://tosonline.jp/news/20240913/00000007.html )
これに対して、着用率がワーストの大阪府はどうでしょうか。
産経新聞の記事によると、
・2023年の交通事故死者数が2年連続で全国最多の148人に上った大阪府は、自転車関連事故の死者も37人と全国ワースト
・府内で2024年1~7月に交通事故で死亡した68人のうち、自転車乗車中は17人と25%を占め、全国平均の約12%と比べると大阪の高さが際立つ
(参照: 産経新聞『自転車ヘルメット着用率5.5%、全国最悪の大阪 事故遺族が動画で訴える「命の価値」』(https://www.sankei.com/article/20240919-DZ2OPA3SOVKCRJITT7RH3Q4VHE/ )
このように自転車関連事故死がワーストの状況で、なぜ大阪府のヘルメット着用率が最低なのか、その理由を色々と調べてみました。
自転車を「ちょい乗り」の移動手段として捉える文化が強いとか、堅苦しさを嫌ったり、みんなと同じであることを重視したりする気質をその理由として挙げている記事もありましたが、私にはピンときません。
なぜなら、これらの理由はどこの都道府県も似たり寄ったりだと思うからです。
私にはよくわかりません…
自転車大国であるオランダの場合はどう?
オランダが世界有数の自転車大国であることは有名ですが、オランダでは自転車のヘルメット着用は義務化されていないことはご存じでしょうか?
実際、YouTubeでオランダのサイクリング動画を見ても、ヘルメットをかぶっている人は稀にしかいません。
このオランダの話を聞いて次のように思う人もいるかもしれません・・・
けれども、自転車ヘルメット着用が義務化されていないという「木」だけを見るのではなく、オランダの交通事情や歴史的背景などの「森」も見る必要がありますよね。
オランダは自転車の利用を国家戦略として推進しており、日本と自転車事情はかなり違います。
同国では1970年代までに自動車の所有が急速に増えましたが、オランダの道路の多くは中世に建設されたもので、このような交通を想定して設計されておらず、そのために交通事故が多発したそうです。
1971年には 3,000 人以上が交通事故で亡くなり、そのうち 500 人近くが子供でした。
これが「Stop de Kindermoord(児童殺人を止めよう)」と呼ばれる運動のきっかけとなり、さらに、環境への配慮や国民の健康促進、交通渋滞の緩和などをめざし、1990年代に自動車から自転車中心の都市計画へと方向転換しました。
国家レベルでの計画が策定され、自転車政策が体系化された結果、たとえば次のような施策が行われています(参考: euronews “The world’s cycling nation: How the Netherlands redesigned itself as a country fit for bikes” https://www.euronews.com/next/2022/09/17/the-worlds-cycling-nation-how-the-netherlands-redesigned-itself-as-a-country-fit-for-bikes )。
● 安全な自転車走行用インフラ整備
オランダの面積は日本の九州とほぼ同じくらいで、国土の70~75%が平地またはほぼ平坦な地域です。
35,000km以上の自転車専用道路があり、自動車と自転車の分離が進んでいます。
これにより、自転車と自動車の接触事故のリスクが低減されています。
ちなみに、日本の場合は、自転車専用通行帯が594km、自転車道が256km、合わせて850kmです。
(参照: 国土交通省の資料による2021年時点のデータ https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/bicycle-safe/pdf1/bicycle-safe4.pdf )
● 自転車優先の交通設計
多くの道路では「fietsstraat auto te gast」(自転車道路、車は客)という標識があり、自転車が優先されます。
また、多くの交差点に自動車、自転車、歩行者それぞれ専用の信号機が設置されています。
これにより、自転車の安全な通行が確保されています。
● 自転車文化の浸透
オランダでは自転車が日常的な移動手段として定着しており、オランダの自転車保有率は人口1人あたり 1.3台です。
対して、日本では人口1人あたり 0.6台です。
● 教育システム
10~12歳の子どもたちに自転車の乗り方や交通ルールを教える授業があり、安全な自転車利用が幼少期から身についています。
ドライバーの自転車に対する意識も高いです。
このような歴史や環境の背景があり、オランダでは国民の自転車の利用が多くなるように、ヘルメット着用の義務化していません。
(参考:Distilled ”How The Netherlands Built a Biking Utopia” https://www.distilled.earth/p/how-the-netherlands-built-a-biking )
ここまでをまとめると:
- オランダではヘルメット着用が義務化されていません。
- オランダは自転車を国家戦略として推進し、1970年代の交通事故多発を契機に、自転車専用道路の整備や自転車優先の交通設計などを進めました。
- 自転車文化が根付き、教育システムによって幼少期から安全な自転車利用が学ばれています。
- このように、歴史的背景や交通・教育システム、文化が日本とは大きく異なっています。
最近、大きく変わってきた日本の自転車事情
「自転車は車道走行」が強調されるようになったのは最近のことです。
また、自転車の交通違反への厳罰化も始まりました。
詳しく見ていきましょう。
2022年11月に自転車を安全に利用するための指針「自転車安全利用五則」が15年ぶりに改訂され、この中で「自転車は車道走行」がより強調されるようになりました。
(参考: 広島県交通安全協会 「自転車安全利用五則」が変わりました。」https://www.hiroankyo.or.jp/traffic-safety-measures/kaitei-gosoku )
日本では、以前から自転車は道路交通法で「軽車両」と位置付けられて、原則として車道の左側を走行することとされていました。
けれども、現実には歩道を走行する自転車が多く、必ずしも法規通りに運用されていなかった状態が長い間、続いていました。
そのために、「自転車は車道走行」が近年、強調されるようになったわけです。
しかし、長年にわたり自動車中心の交通政策を展開してきた日本では、自転車の位置づけが曖昧なまま、交通ルールやインフラ整備が場当たり的な対応に終始しているのが現状です。
たとえば、二段階右折のように自転車にとって面倒なルールや、左折レーンでの直進可のように危険な交通ルールなどが存在します。
また、多くの自治体が自転車専用レーンやナビラインの整備を進めていますが、実用性に乏しいものも少なくありません。
オランダのように、非常に長い自転車専用道路が整備されて、自動車と自転車の分離が進んでいるわけではありません。
たとえば、途中で突然消えてしまう自転車レーン、狭すぎて危険な自転車ナビライン、駐車車両によって常時ふさがれて路駐車専用レーンと化している自転車専用レーン…
更に、自転車の交通違反への厳罰化が最近、始まっています。
2024年11月からは改正道交法が施行され、自転車での酒気帯び運転やスマホを利用しながらの「ながら運転」などの危険運転が罰則付きで禁止されます。
そして、2026年には自転車への青切符交付も実施されようとしています。
これらの急な方針転換は、次のような混乱を招いています:
● 自転車の交通ルールに関する理解不足
● 歩道走行に慣れた自転車利用者の戸惑い
● 車道走行への不安(特に初心者や高齢者)
● 自動車やオートバイドライバーとの軋轢
このように、日本の状況はオランダとはかなり違います。
したがって、「オランダがヘルメット着用を義務化していないから、日本も着用しなくていいよね」とは言えないと思います。
ここまでをまとめると:
- 日本では長年「自動車優先」の交通政策が続いてきたため、自転車の位置づけが曖昧であり、インフラやルールの整備が不十分です。
- このような状況で、自転車の交通違反に対する罰則が近年、強化され始めており、急な方針転換が混乱を招いています。
- 自転車を重視する文化やインフラが備わっているオランダとは大きく異なるので、ヘルメット着用の義務化を同国と同様に扱うことはできません。
事故した時、後悔しないために。ヘルメット
衝撃の現実:自転車事故の8割は自動車との衝突、命取りとなる頭部の致命傷
「自転車は車道走行」が強調されるようになりましたが、日本の自転車を取り巻く現状には上記のような問題があるので、特に交通量の多い車道は危険です。
実際、自転車事故の約8割は対自動車です(次の図)。

https://www.sonpo.or.jp/report/publish/bousai/ctuevu00000053ot-att/book_bicycle.pdf
また、自転車の他の車両との事故類型をみると、出会い頭や右左折時での事故が多くなっています(次のグラフ)。
自動車と自転車の分離があまり進んでいないので、このような結果になっていると思われます。

https://www.sonpo.or.jp/report/publish/bousai/ctuevu00000053ot-att/book_bicycle.pdf
致命傷の場所でみると、自転車乗用中の交通事故で亡くなられた方の約5割が頭部に致命傷を負っています(次の図)。

生死を分けるヘルメット:着用で死亡リスクが半減する驚きの効果
「ヘルメットなんて面倒くさい」という声をよく耳にします。
しかし、実際の事故データには目を見張るものがあります。
ヘルメット着用者と非着用者の間には、明確な生存率の差が存在するのです。
自転車乗用中の交通事故においてヘルメットを着用していなかった方の致死率(死傷者数に占める死者数の割合)は、着用していた方に比べて 約1.9倍高くなっています(次の図)。

次の図は愛媛県警察のチラシに載っていた事例です。
車と自転車の正面衝突で、自転車に乗っていた方はヘルメットを着用していたため頭部への大きな損傷は免れたそうです。

このチラシには「過去5年間の自転車事故死者のうち、ヘルメットを着用していれば、約75%の方の命が助かったと推測するデータもあります!」とあります。
私も濡れたマンホールの上でタイヤが滑ってしまい、転倒したことがあります。
転倒した際、走っていた勢いで、自転車と一緒に体が何メートルか舗装路上を滑走しました。
脚や腕のすり傷だけのダメージでホッとしましたが、ヘルメットをみると大きく凹んでいるではないですか!
「もし、かぶっていなかったら…」とゾッとしたことを今でも鮮明に覚えています。
命の価値と比べれば些細な投資:手の届きやすい自転車用ヘルメット
事故で頭を打ってから「なんでヘルメットをかぶっていなかったのか」と悔やんでも後の祭りです。
「ヘルメットは高価で…」というのは、もはや過去の話です。
最近の自転車用ヘルメットは、驚くほどリーズナブルな価格で提供されています。
街乗りや通勤・通学に適している一般的な自転車用ヘルメットは3,000円~8,000円くらいだと思います。
これくらいの出費で、より安心して自転車の乗れるのは安いものだと思います。
また、自治体によっては、ヘルメットの購入補助制度を導入しているところもあるようです。
株式会社オージーケーカブトが実施した調査によると、全国1,718の自治体および23特別区で購入補助制度を導入しているのは全体の21%だそうです。
(参照: 株式会社オージーケーカブト 『5月1日は「自転車ヘルメットの日」全国で自転車用ヘルメット購入補助金に関する初の一斉調査』 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000046797.html )
この調査の中で紹介されている「自転車用ヘルメット購入補助制度を導入する自治体一覧(※都道府県を除く)」はこのURLに載っています。
お住いの地域で利用できるかもしれないので、チェックしてみてはいかがでしょうか?
https://www.sankei-digital.co.jp/wp-content/uploads/2024/04/BICYCLEHELMET_list.pdf
また、ヘルメットをかぶるのはカッコ悪いというイメージを持つ人が多いかもしれません。
しかし、最近は、安全性はもちろん、デザイン性も優れたヘルメットがたくさん登場しています!
たとえば、次のヘルメットには、取外しできるバイザー(つば)がついており、バイザーがあるとカジュアルな感じを出すことができます。
私がかぶっているヘルメットもこのタイプです。
次のレディース用ヘルメットは普通のおしゃれな帽子のようです。
こちらも普通の帽子に近いヘルメットで、男性もかぶれます。
どうせ買うなら、自転車用ヘルメットの安全基準を満たしたものを
命を預けるヘルメット選びで、見落としてはいけない重要なポイントがあります。
アマゾンや楽天などで、「CE認証取得」と表示されている自転車用ヘルメットを良く見かけます。
安全基準に詳しくない一般の人は「CE認証取得」という表示があると、何の認証かはよく分からないけど、この商品は良さそうだと思ってしまいかねません。
実は、「CE認証取得」という表示だけでは自転車用ヘルメットとしての安全性は保証されていないのです。
商品説明をよく見ると、軽作業用ヘルメットの安全基準である「EN812」を取得しているだけの商品が少なくありません。
自転車用ヘルメットの安全基準は「EN1078」なので、注意が必要です。
詳しくは次の記事をご覧ください。
安全基準を満たしたヘルメットには、SGマーク、JCFマーク、CE(EN1078)マーク、CPSC 1203などのマークがついています(次の囲みを参照)。
● SG(製品安全協会): 国内基準。製品安全協会が定める安全基準を満たした製品に付与されるマーク。落下衝撃試験、あごひも強度試験などが含まれる。

● JCF(日本自転車競技連盟): 国内基準。日本自転車競技連盟が定める公認競技での使用を認める基準。SG基準を満たした上で、競技特性に応じた追加試験(耐久性試験など)を実施。

● CE(EN1078): 欧州基準。欧州連合内で販売される自転車用ヘルメットに要求される安全基準。衝撃吸収性、保持性、視界確保などが評価される。

● CPSC 1203: 米国基準。米国消費者製品安全委員会が定める安全基準。衝撃吸収性、あごひも強度、ラベル表示などが規定されている。

ヘルメットを選ぶ際には、これらのマークを確認しましょう。
おわりに
自転車ヘルメットの着用は、単なる義務や規則ではなく、私たち自身の命を守るための重要な習慣です。
日本の自転車環境が自転車大国のオランダとは大きく異なる中、ヘルメット着用は安全を確保する有効な手段となります。
スタイリッシュなデザインのヘルメットも増えており、安全性とファッション性を両立することも可能です。
自転車生活は、豊かで健康的な人生につながると思いますので、安全性を高めるためにヘルメット着用がもっと広がることを願っています。
「あのオランダでもヘルメット着用は義務化されてないの?
だったら、大阪みたいにヘルメットをかぶらなくてもいいんじゃない?」
「そうだね! ヘルメットをかぶるのは面倒だし、お金もかかるからな~」