昔に比べると「筋力や持久力が落ちた」と感じることはありますか?
次のような想いは誰しも抱いていると思います。

「寿命は長くても、寝たきりの年月が長いのは勘弁して」
私も「健康寿命」に興味を持つようになり、その意味や重要性について考えるようになりました。
「健康寿命」という名前とその数字だけが独り歩きしていて、その実際の意味はあまり広く知られていないように思います。
また、知名度はあまり高くないですが、「65歳健康寿命」という指標もあり、中高年の人にはこちらの方が有用だと思います。
「健康寿命」(ゼロ歳の人が健康に生活できる年数)は男性73歳、女性75歳ですが、65歳時点で元気な人の健康寿命は男性82歳、女性85歳と大きな違いがあります。
この記事では、実はあまり知られていない「健康寿命」の意味と、「65歳健康寿命」という中高年にとってより実用的な指標を紹介したいと思います。
目 次
「健康寿命」は男性73歳、女性75歳
「健康寿命」という言葉は、若い人はあまり知らないかもしれませんが、「私はあと何年、元気に生活できるのだろう」と老い先が気になりだす中高年の人たちの認知度は高いと思います。
「健康寿命」の定義は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」で、現時点では最新である2019年のデータでは男性72.68歳、女性75.38歳となっています(下図)。

https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf
2019年の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳ですから、平均寿命と健康寿命の差は日常生活に制限のある「不健康な期間」で、男性8.73年、女性12.06年となっています。
この事は、医薬品やサプリメント、食品のメーカーや健康関連のグッズやサービスの販売業者のコマーシャルやプロモーション記事でよく引き合いに出されます。
「男性は9年、女性は12年もの間、支援や介護が必要な状態になっています。この期間を短くし、長く自立生活をするために、〇〇を飲んで( 食べて / 習慣にして)健康寿命を延ばしましょう!」という宣伝を見たことのある人は多いと思います。
「健康寿命」の数字に違和感はないですか?
上記の「健康寿命」では男性も女性も、それぞれ73歳、75歳になったら、多くの人が支援や介護を受け始めるイメージですが、違和感はありませんか?
私の身内や知人には70歳前に、病気や怪我で要介護になったり、亡くなったりした人もいますが、70歳を超えても元気な人が殆どです。

スポーツ庁による「体力・運動能力調査」でも、高齢者の体はさらに若返りを続けていることが報告されており、例えば、次の記事では、「今の75歳の体力は、30年前の60代前半に相当するレベルと考えられているのです」と述べています(参照: INSIGHT NOW! 「高齢者の体力は、なぜこんなに向上したのか?」 https://news.infoseek.co.jp/article/insightnow_11301/ )。
また、PRESIDENT Onlineでも、「日本の高齢者は20年前より10歳は若返っている」 という記事がありました( https://president.jp/articles/-/30717 )。
それから、「不健康な期間が男性9年、女性12年って、こんなに長いの?」と思いませんか?
介護サービスを受けている人は年齢別にどれくらいなのかと思い、厚生労働省の資料で調べてみました。

次の図のように、介護予防サービスや介護サービスを1年間継続して受給した人は、70代前半で、男女ともに4%台前半、70代後半でも、男性7.9%、女性9.1%という低い割合です。

の図に筆者が加筆(赤字の部分)
この図をみて分かるように、男性は73歳、女性は75歳の健康寿命を過ぎたら、急に大半の人が要支援や要介護になるのではないのです。
これまで、ちゃんと走っていた自動車がどれも急に壊れ始めるといったことはありませんよね。
なぜ、このような違和感が起こるのか
「健康寿命」は厚生労働省が定めた定義に基づいて導き出されています。
3年に1度行われる国民生活基礎調査の中で、「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」、「あなたの現在の健康状態はいかがですか」という質問が行われます。
この2つの質問に対する自己申告の結果から、「日常生活に制限のない期間の平均」、「自分が健康であると自覚している期間の平均」を算出し、それと年代別人口や生存率などを考慮して「健康寿命」導かれています。
ここでもう気が付いた人も多いと思いますが、「健康寿命」の数字については次のように言えます。
① 主観的なデータに基づいて導き出されている
肩や首が痛くて、衣服の着脱や食事、入浴が大変とか、膝や腰が痛くて通勤や仕事、運動などを思うようにできない、あるいは、毎年、花粉症が酷く、その時期は考える作業が辛いなどという場合、「健康上の問題で日常生活に影響がある」ということになります。
これって、完璧主義や勤勉さを重んじるため、不完全さに目が行きがちな国民と、楽観的で「なるようにしかならないから、ケセラセラでいこう」という国民では結果が違うと思いませんか。

蛇足ですが、これに関連して「世界幸福度ランキング」を紹介したいと思います。

「世界幸福度ランキング」はGDPのような客観的な指標も考慮していますが、主に「最近の自分の生活にどれくらい満足しているか」という主観的な回答に基づいています。
2024年の日本の幸福度は世界で51位と、上位では全くありません(参照:ウェルナレ 「≪2024年_世界幸福度ランキング≫日本の順位は?ランキングからわかる特徴を解説!」 https://x.gd/P24Oi )。
日本より生活や医療の水準が低く、安全性や治安が悪い国であっても、幸福度ランキングは日本よりも高い国も見受けられます。
この理由として、日本人の国民性が現状に不満を感じやすい傾向があったり、自分の幸福を声高に主張することに抵抗を感じたりすることが多いということがあるかもしれません。
② 介護を必要とする期間を指しているのではない
「健康寿命」の導き方から分かるように、「介護」とは直接的な関係はありません。
厚労省の「健康寿命」のデータを引用して、「男性は9年、女性は12年もの間、支援や介護が必要な状態になっています」と言っている健康ビジネス関連の企業は、わざと間違えて言っているのではないかとさえ思ってしまいます。
これら二つが「健康寿命」に対する違和感の原因だと思います。
現在、65歳の健康な人の健康寿命は何歳?
あなたが65歳の男性で元気だとしたら、後、どのくらい元気に過ごせると思いますか?
これを知りたい場合、『男性の「健康寿命」 - 65歳』で計算して、8年(= 73 – 65)と考えるのは、もちろん間違っています。
なぜなら、「健康寿命」はゼロ歳の人が何歳まで健康に生活できるかを示す数字だからです。
では、どうすれば、中高年が残りの健康寿命を知れば良いのでしょうか?
実は「65歳健康寿命」という指標があります!
65歳健康寿命 = 65歳+65歳平均自立期間(年)
ここで、平均自立期間とは、要介護2以上の認定を受けるまでの期間の平均です。
つまり、介護保険の要介護度の要介護 2~5 を不健康(要介護)な状態とし、それ以外を健康(自立)な状態とする考えに基づいた健康寿命です。
参考までに、要介護2以上というのはどんな状態かを説明している図を、次の厚生労働省の資料から紹介します。

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000126240.pdf
厚生労働省のWebページにある「健康寿命の算定方法の指針」http://toukei.umin.jp/kenkoujyumyou/syuyou/kenkoujyumyou_shishin.pdf 』という文書によると、65歳の平均自立期間は男性17.23年、女性20.49年です。
したがって、「65歳健康寿命」は男性82.23歳、女性85.49歳となります(次の図)。

この「65歳平均自立期間」は、各自治体が業務で把握している介護保険認定者数という客観的な数字を元に導き出されています。

「65歳健康寿命」という言葉に馴染みが無い人が多いかもしれませんが、この西東京市の例のように、「65歳健康寿命」を啓蒙している自治体もあります:
西東京市Web 「65歳健康寿命をご存じですか」
https://www.city.nishitokyo.lg.jp/kenko_hukusi/seizinhoken/henkou_zyouhou/65kenkojumyo.html
ついでに、65歳の人の平均余命もみてみましょう。
これは次の式で計算できます。
65歳平均余命(年)=65歳平均自立期間(年)+65歳平均障害期間(年)
ここで平均障害期間とは、要介護認定を受けてから死亡までの期間の平均です。
先ほど、平均自立期間は先ほど紹介したので、同じ参照資料から平均障害期間を紹介すると男性は1.63年、女性は3.41年です。
「男性は9年、女性は12年もの間、支援や介護が必要」となんとなく思われているよりも、はるかに短い期間ですね。
この平均障害期間を用いると、「65歳平均余命」は男性18.86年、女性23.9年となります(次の図)。

また、この図から分かるように、65歳の時点で元気な人の平均寿命は男性83.86歳、女性88.9歳です。
おわりに
「健康寿命」と「65歳健康寿命」の意味と、その公開されている統計データを紹介しました。
「健康寿命」は、単なる平均寿命とは異なり、我々が元気に過ごせる期間を示していますが、あまり知られていない「65歳健康寿命」という指標は、中高年にとって非常に有益な情報です。
現時点で元気に生活している中高年は、一般に言われている「健康寿命」から想像するよりも、より長い健康寿命を期待できそうということで、一層、元気が出るのではないでしょうか。
中国の詩人、杜甫が詠んだ詩には「人生七十、古来稀なり」という一節があり、「古希」という言葉の由来になっていますが、今では、70歳は大半の人達が到達する通過点でしかありません。
もちろん、健康寿命を延ばすためには、日々の生活習慣や健康管理が重要で、それを実践することでより長く健康寿命を延ばせると思います。
「元気で長生きしたい